オーディオテクニカが9月に発売した新型のTWSイヤホン。3万円台というハイエンドラインには初投入となるATH-TWX9を今回レビューしてみる。
- オーディオテクニカが本気で投入したイヤホンがATH-TWX9
- Snapdragon Soundに360 Realty Audioに対応!音響機構にも妥協なし
- キレのある低域の効いたサウンドと空間表現が魅力
- マルチポイント接続、深紫外線除菌、高いフィッテイング性能と欲張りな機能面
オーディオテクニカが本気で投入したイヤホンがATH-TWX9
市場競争が過熱する完全左右独立型イヤホンの市場。Apple AirPods Proの新型が発表されるなど、ますます注目度が高まっていくセグメントだ。
そんな中で日本の老舗オーディオメーカーであるオーディオテクニカが、満を持して発売したフラッグシップイヤホンがこのATH-TWX9だ。
ATH-TWX9は立派な箱に入っている。所有感を満たされる
ケースはマット調の加工がされている。サイズはやや大きいものになる。
本体の収まり悪くない。特段取り出しにくいといったこともなく使いやすいものだ。
本体は比較的小型と言えるものだ。
Snapdragon Soundに360 Realty Audioに対応!音響機構にも妥協なし
ATH-TWX9の対応コーデックとしてはSBC/AAC/aptX/aptX Adaptiveに対応している。aptX Adaptiveではハイレゾ相当となる24bit/96kHz再生も可能で、Snapdragon Soundの認定も受けている。一方で、ハイレゾ相当コーデックで一般的なLDACには対応していないため、高音質再生を求める場合は基本的にAndroidスマートフォンでの利用が前提となる。
また、ソニーが展開している360 Realty Audioにも対応している。社外のイヤホンではかなり珍しい例だ。
コーデック面ではトレンディなところを押さえるが、核となるオーディオ面についても妥協はない。
ドライバーユニットは5.8mm経のものを採用している。近年では大型のものもいくつか登場しているが、装着感を高めるために本機ではこのサイズのものを採用したと考える。
強力な磁気回路、レスポンス重視の設計となる独自のドライバーユニットを始め音響メーカーらしい工夫が盛り込まれている。
3層のマルチレイヤー振動板とエッジマウント方式を採用するなど、振動板の内部損失を抑えつつ、有効面積を大きくすることが可能だ。
加えて、ボイスコイルを空中配線することで、レスポンスの良い駆動が可能になっている。アンプの出力に大きな制約があるTWSイヤホンにとって、ドライバーユニットそのものが高感度な点は音質にも大きく影響をする。
キレのある低域の効いたサウンドと空間表現が魅力
音にも妥協はないと触れ込みのATH-TWX9を早速聴いてみることにする。今回の視聴曲はこちら
機動戦士ガンダム 逆襲のシャアより
BEYOND THE TIME〜メビウスの宇宙を超えて〜/TM NETWORK
男性ボーカル枠はこちらをチョイス。森口博子さんのカバーもなかなか良いので、こちらも興味がありましたらぜひ。
電音部より IAM(feat.Shogo&早川博隆)
ゴリゴリの音圧高めの低域が楽しめるEDMをチョイス。ライブイベントでの初披露の場面にたまたま居合わせた筆者は、猿のように飛び跳ねていたという。
エヴァンゲリヲン 新劇場版:Qより
3EM07_C_15_take2/鷺巣詩郎
エヴァQのサントラからチョイス。具体的にはヴンダーの初実戦の際にかかるアツイ曲。同じ庵野作品である『ふしぎの海のナディア』では「万能潜水艦N・ノーチラス号」という曲名で作中で使われており、この曲はそれのリメイク版でもある。
スロウリグレット/田所あずさ
いつものです。
今回の視聴環境はスマートフォンにソニーのXperia 1IVを採用し、aptX Adaptiveの環境で使用する。ストリーミング環境でも単独で24bit/96kHz環境の再生が可能で、Snapdragon Soundに準拠したハードウェアを搭載している機種だ。
実際に聴いてみると、とにかく上品ながらもパワフルなサウンドだ。一言で傾向を示すのであれば、やや低音よりの質のいいドンシャリだ。同社のイヤホンであれば、Dual Push Pullドライバーを採用したCKRシリーズのような不思議なサウンドステージを演出するものでもなく、CKR7と言ったオーソドックスなタイプのものに近い。
高域の伸びはあるが、これはかなりコーデックに依存する。伸びやかな高域を体験したいのであれば、aptX Adaptive環境での利用を強くオススメする。低域は量感、レスポンス共に高いレベルだと感じた次第だ。正直5mmクラスのドライバーを使用しながら、ここまで上手く鳴らせるのであれば上出来だ。
最初にスロウリグレットを聴いてみる。透き通るヴォーカルに対して、低域や高域も過度に主張しないサウンドであることがわかる。一方でさ行が刺さることが見受けられたが、突き刺さるような痛いものではない。筆者的には程よい刺激だ。
ここで曲をBEYOND THE TIMEに変えてみると、イントロの時点でサウンドステージの広さからくる「気持ちよさ」と表現できる感覚を体感できる。機種によっては男性ボーカルを苦手とする機種もあるが、ATH-TWX9ではそのようなクセは抑えられていると感じる。
曲をIAMに変えてみる。開幕早々に正味「治安の悪い音」の応酬がやってくるのだが、低域のレスポンスに関しては文句なしだ。小宮有紗、澁谷梓希、秋奈の3名で歌い上げるヴォーカルパートもこれまた治安が悪いのだが、低音がしっかり効きながらもこの辺りは高い解像感を持ちつつ一切埋もれることはない。この解像感とレスポンスの良さは、小口径ドライバーに中空配線のボイスコイルを採用した点が生きていると感じられる部分だ。
ここで曲を3EM07_C_15_take2に変えてみる。冒頭のギターの低域とストリングから一気に押し寄せる情報を的確に鳴らしているようだ。Bパートのドラムスとベースが押し寄せてくる低域は、5mmクラスのダイナミック一発とは思えない重厚感のあるものだ。
サウンドステージも比較的広い機種となるので、このような曲でも窮屈さを感じさせずに気持ちよく聴ける。
ここまで聴いてきて、サウンドクオリティはかなり高いことが分かる。さすがに有線のイヤホンには劣るが、Snapdragon Sound環境であれば有線環境に近いところまで来ている。
もう一つの売りである360 Realty Audioについては対応コンテンツが少ないため、Xperia側で仮想的にこの音響効果を追加できる360 Upmixを使用して試してみる。
こちらについても効果はかなりわかりやすい。WF-1000XM4ほどではないが、最適化されているハードウェアなだけあって高いクオリティで楽しむことができる。ライブ音源などではさらにリアルな感覚で楽しむことができる。
高性能なノイズキャンセリング、高音質マイクもチェック
さて、音質についてはこの辺りにして、ここからはノイズキャンセリングやマイクの品質について書いてみる。今回このイヤホンを利用して、すごいと感じた点はノイズキャンセリングだ。
筆者も多くのイヤホンを利用してきたが、オーディオメーカーが作ったイヤホンはQualcommの枠組み内で作る関係もあり、ノイズキャンセリングといった部分ではスマホメーカーのものに比べると一歩劣るものが多かった。
今回のATH-TWX9はノイズキャンセリングにしてもかなり高い次元に持ってきている。特徴としては、周囲の環境音をマイクで拾って最適化を行う「オプティマイズノイズキャンセリングシステム」を採用している。ハイエンド機でよく見られるアクティブ方式ではなく、ある意味従来のパッシブ方式と言われるものではある。
イヤホン側からも長押しでノイズキャンセリングの最適化を行うことが可能だ。
また、装着時に検査音を出力し、装着する度に変わる耳道の反響音をマイクで収録することによって、常に最適な状態でのノズキャンセリング処理が可能となっている。近年のこの手のイヤホンはパーソナライズが大きなテーマとなっているが、この機種もかなり力を入れている部分だ。
ノイズキャンセリングの感度としてはかなり強力な部類だ。処理的にはデジタルNCのノウハウを多く持つソニーのWF-1000XM4にはやや劣るが、シーンごとにモード変えたり最適化を行えば騒音は大きくカットできる。音質にも大きく影響しないチューニングになっている点も評価できる。
マイク性能の高さも評価したい。この機種においては、 MEMSマイクと呼ばれる小型ながらも非常に感度のいいマイクが採用されている。そのため、通話品質もかなり良好であった。
加えて、この機種にはサイドトーン機能という自分の声をイヤホン側で捉えて再生する機能がある。両耳にイヤホンをつけていた状態で喋ったりすると、どうしても自分の声のボリュームが分からなくなる時がある。
この機能があることによって、イヤホンを装着していない状態に近い環境で会話が可能になる。自然に会話ができる機能として高く評価したい
オーディオテクニカにしかり、評価の高いゼンハイザーもプロ向けマイクなど音の分野では幅広く手掛けるメーカーでもある。このマイク性能が良ければ、より正確で自然な音声処理、ノイズキャンセリング処理が可能になるので、このあたりのノウハウがしっかり反映されている。
マルチポイント接続、深紫外線除菌、高いフィッテイング性能と欲張りな機能面
音以外の部分もしっかり評価したい。この機種の特徴としてはIPX4相当の防滴対応にマルチポイント接続がある。マルチポイント接続は2つの端末との同時接続が可能はものだ。
例えば、プライベートと仕事用で携帯電話を分けて2台利用している場合、前者から音楽を再生し、後者の着信待ち受けを常時を行うことが可能だ。高音質再生を売りにする機種でマルチポイント接続できるものはかなり少ないため、そのような意味でも貴重な存在となる。
ATH-TWX9では接続した両方の機種で対応していれば、aptX Adaptiveコーデックが利用できる。同じくマルチポイント接続を売りにするTechnics EAH-AZ60ではLDAC接続時にマルチポイント機能が利用できないため、この部分は大きな利点だ。
加えて、Android端末とiPhoneを同時接続した際に、強制的に下位のコーデックに引っ張られることもない。Android端末ではaptX Adaptiveで接続され、iPhoneはAAC環境で利用できる。
また、収容ケースについては近年のトレンドでもある無接点充電に対応している。加えて深紫外線除菌も可能で、常にイヤホンを清潔に保つこともできる。このような機能とはガジェットとしては非常に面白い機能である。
ケース内に収めるだけで除菌が可能だ。
本体のイヤーピースは高さが違うものが3種類。それぞれサイズが異なるものが同梱されている。このようなイヤホンは通常のイヤホンに比べてフィッティングが難しいと言われるが、メーカーがイヤーピースを多く付属してくれる点はありがたい。
イヤーピースが豊富なのは嬉しい。特に高さが違うものについてはフィット感にも大きく影響するので、高音質再生にも大きく影響してくる。
フィット感については小口径ドライバー採用なこともあって、 TWSイヤホンの中でも上位に入る装着感だ。
操作性についてもトレンドの機能をおおむね押さえている。ATH-TWX9はタッチセンサーに加えて物理ボタンも備えているので、他のイヤホンに比べて長押し操作などの煩雑さが少ない点はありがたい。
もちろん、アプリからのキーアサイン変更も可能だ。ノイズキャンセリングの設定変更、低遅延モード、360 Realty Audioの設定もここから可能だ。
筆者的にありがたいのはボリュームステップの変更機能だ。最大64段階の設定が可能で、より細かい音量調整が可能だ。
高音質に全部のせ!ATH-TWX9は3万円台の価格ながらも納得の1台
さて、オーディオテクニカのATH-TWX9であるが、ハイエンドにふさわしい完成度となっているイヤホンだ。多種多様なTWSイヤホンの中でも高音質なのはもちろんだが、マルチポイント接続対応、深紫外線除菌といった点は独自性のある部分と言える。
コーデックはaptX Adaptiveに対応な上で、Snapdragon Sound認定も受けており、現時点において高音質再生可能な上位ラインをしっかり抑えている。
まさに高音質で全部載せとも言えるTWSイヤホンであり、実売3万3000円の価格も納得だ。
惜しい点は電池持ちがあまり良くない点。ケースがやや大型な点、環境によっては音切れしやすいことが見受けられた点だ。
ATH-TWX9の連続再生時間はノイズキャンセリング利用時に公称値で6時間となっている。ソニーのWF-1000XM4(8時間)やテクニクスのEAH-AZ60(7時間)より劣るのは難点だ。
ケース自体は無接点充電に加えて、深紫外線除菌機能まで備えると言った機能面では抜かりのないものだ。そのため、多少の大型化はやむを得ないが、ズボンのポケットに収める際には少々ふくらみが気になるところだ。
接続性についてはSnapdragon Soundでの接続時に、音声出力のあるアプリを切り替えたりした際に音切れが見られた。例えばSpotifyからYoutubeに切り替えた場合などである。
ただ、接続性や連続再生時間についてはファームウェアアップデートで改善される見込みもあるため、長期で利用していかないと評価が難しいところだ。
これらの点を踏まえても独自性のある機能や高音質再生と言った部分は抜かりがなく、WF-1000XM4やEAH-AZ60、Momentum TWS3を検討していたユーザーには悩ましい選択肢が増えた印象だ。
機能面や価格面からもライバルとなるソニーのWF-1000XM4
この機種自体はコーデックがaptX系なので、接続端末はAndroid端末に限られることも多いが、対応する端末を持っている場合は非常に高音質なリスニング体験が可能だ。
オーディオメーカーであるオーディオテクニカが本気で作ってきたTWSイヤホン。サウンドクオリティはなかなか素晴らしいものであった。興味がある方はぜひ店頭で試聴してみてはいかがだろうか。