今年に入りオーディオファンの間で静かながらに注目を集めるTruthearのイヤホン。7月に発売したZEROを皮切りに、ハイブリッド構成のHEXAの2機種が現在は販売されている。
今回筆者は2機種とも試聴できる機会があったので、聴き比べとさせていただきたい。個々の詳細レビューは別途記載する予定だ。
イヤモニ調のデザインが特徴のZERO
ZEROはTruthear初の商品となり、著名なレビュワーとしても活動しているCrinacle氏とのコラボレーションで生まれたものだ。
イヤホンの構成は7.8mmと11mm口径のダイナミックドライバーを採用した、デュアルダイナミックとなる。振動板の材質はそれぞれ別のものが採用されており、伸びやかでありながらニュートラルなサウンドを実現している。
本体は医療グレードのレジンシェルを使用している。ドライバーは縦型配列のため、耳への収まりも良好だ。
見た目はイヤモニに近く、青いシェルプレートも高級感を演出している。ケーブルも編み込みタイプでしなやかだものが採用されている。こちらはHEXAも共通しており、2Pin規格でのリケーブルも可能だ。
イヤーピースも複数種類付属し、キャリングポーチも備えている。
外箱は近年の中国メーカーでよく見かける美少女が描かれたものだ。
ハイブリッド構成の上位機種となるHEXA
ひとつ上の価格帯で展開されるHEXAは、Truthearのオリジナルチューニングとなる。一部では某社のある機種にすごく似ていると評されているのだが…
イヤホンの構成としては、3BAにダイナミックドライバーを加えたハイブリッド構成となる。ZEROと比較してもヴォーカル表現を重視したチューニングとなっている。
HEXAは3Dプリンターで製作されたシェルとなっている。
BAユニットやダイナミックドライバーから音導管が伸びていることがわかる。これも3Dプリンターにて生成されている。
外箱のデザインは異なるが、付属品はZEROと同様だ。
低域表現のZERO。空間表現と中高音域の表現が得意なHEXA
早速この2機種を聴いてみることにする。使用したプレイヤーはソニーのウォークマン NW-WM1AM2だ。
まず最初にZEROから聴いてみる。デュアルダイナミック機らしく、低域がやや強めと言ったところだ。強めではあるものの量感はそこまで多く感じないものであった。
空間表現はかなり上手なイヤホンとなるため、広がりのある音を体感できる点については好感が持てる。
その一方で、高域は特段マスクされる感覚はなく、非常に聴きやすい音になっている。過度に高域が刺さるような感覚もなければ、サ行の刺さりや金属的な固さも少なく、材質由来の付帯音と呼べるものはかなり少ない。
言うなら音色的な美しさなどはないので、楽曲によっては「つまらない」と感じることもあるはずだ。
続いてHEXAに変えてみると、ZEROに比べて中高音域へグッとフォーカスが移る。サウンドの方向性は大きく変わらないものの、音の粒立ちとも表現できる解像感がグッと上がる印象だ。
ZEROと比較すると、低域の量感は減るものの、沈み込む表現はこちらの方が上手い印象だ。それもあってか、空間がより広がったような感覚となる。HEXAは完全上位互換とは言い切れないものの、ニュートラルとも評する傾向は近いものとなっている。
その一方で、HEXAもZERO同様に、音色的な面白さや艶やかさはあまり感じないものであった。よく言えばモニター調のサウンド、悪く言えば「音はいいけどつまらない」という評価も理解できなくはない。
筆者的にはZEROよりもHEXAの方が好みと思える楽曲が多かった。いつもの音楽をよりリッチに聴きたいニーズにはHEXAの方が良いだろう。
次の時代をリードする。節目となるイヤホンたち
ZEROは日本展開価格で7,000円、HEXAは12,000円という価格設定だ。正直なことを言うのであれば、この価格でこのようなサウンドのイヤホンを出されるとは…と感じてしまうところはある。
TruthearのイヤホンはZEROもHEXAも一言で示すなら「ニュートラル」と表現される音だ。聴感的にもすごく聴きやすく、大きなクセも無いことからジャンルを選ばないイヤホンと言える。
その一方で、デフォルト構成では「つまらない」と感じる方もいることでしょう。
どちらもニュートラルと言えるサウンドなので、イコライジングも比較的過敏に応えてくれる印象だ。イヤーピースやリケーブルも好みに合わせて選ぶ、追い込む楽しみもある。
それにしても、このようなニュートラルとも表現できるサウンドチューニングながら、ここまで安価な商品展開ができる点は驚きだ。
正直なところ、今のイヤホン市場は飽和状態と言える。主力になる2万円クラスではDSP処理まで可能なTWSイヤホンも力をつけており、有線無線を問わない泥沼の戦国時代と言えるような状態だ。
中でも2万円以下の有線のイヤホンはFinalやo2eid(intime)を始めとした国内勢も勢いがあるものの、ここ数年で中国メーカーの牙城となりつつある。
数年前の中国メーカーはブランド力のなかったメーカーが多かったこともあり、ユーザーから高い評価をもらうことが先決となった。
そのため、多くが最新の音響理論などを取り入れ、理想的な特性に近づけたものとなった。時には他社製品の理想的な周波数特性、音響機構を真似ると言ったものまで現れた。
パクリと言えばそれまでだが、中国でよく言われる「利益を得るための最短手段は、究極の効率重視」考え方の結果と言える。中国のメーカーのイヤホンが「安くてもいい音がする」と言われるきっかけともなった部分だ。
近年はイヤホンに限らず、スマートフォンや家電製品でも中国メーカーは研究開発への投資が盛んだ。文化大革命直後は技術者不足に喘いでいたが、海外からの招聘以外にも国内生え抜きの技術者も生まれ、ここ数年で急速に力をつけている。
そんな研究開発投資を惜しまず、最新の理論や研究結果に基づいた中国メーカーのイヤホンは、科学的に考察しても「いい音」に近いものとなっている。
近年の有線イヤホンではMoondropがその代表格とも言えるものだ。日本でも知名度があり、ファンも多い。
TWSイヤホンではHuawei Freebuds Pro2が日本でもVGPグランプリ技術部門大賞を受賞するなど高い評価を受けている。
日本はTWSイヤホンも多く出回る市場であるが、その中でも販売台数のうち70%は有線のイヤホンだ。こう見ると、まだまだ有線イヤホンが持つシェアは大きいものがある。
その中でもTruthearのイヤホンたちはニュートラルなサウンドを武器に、カスタマイズ次第では何色にでも染まれる個性を持っていると感じた。
令和のShure SE215のような「だれにでも勧められる」イヤホン。その決定版とも言えるZEROやHEXAの音に触れてみてはいかがだろうか。