この冬に満を持して登場した高音質TWSイヤホン。その中でもSnapdragon Soundに対応し、特に音質特化を目指したFiio FW5を今回レビューしてみる。
Fiioから登場のフラッグシップTWSイヤホン
市場競争が過熱する完全左右独立型イヤホンの市場。Apple AirPods Proの新型が発表されるなど、ますます注目度が高まっていくセグメントだ。
そんな中、日本においても試作品段階から好評な商品として注目されていた、FiioのハイエンドTWSイヤホンが満を持して発売となった。
箱はフラッグシップらしく高級感がある
本体はFH7などと同じ意匠となっており、同社の上位モデルとして位置づけられる。
ダイナミック+BAドライバーのハイブリッド構成なこともあり、本体はやや大型だ
充電ケースは価格帯を考えるとチープ感は否めない。3000円の中華イヤホンだ!と言われても疑わない。
旭化成エレクトロニクス製DACにハイブリッドドライバ構成のお化けTWS
FW5の対応コーデックとしてはSBC/AAC/aptXに加え、高音質なaptX AdaptiveやLHDCに対応している。
aptX Adaptiveではハイレゾ相当となる24bit/96kHz再生も可能な一方で、中国メーカー機で採用されるLHDCにも対応している。日本正規販売品でLHDC対応のイヤホンは数少ないので珍しいものだ。
また、Qualcomm製のフラッグシップBluetoothチップである「QCC5141」を採用し、Snapdragon Soundに準拠するハードウェアとなっている。
コーデックについては国内で販売されるハイエンド機にも引けを取らない一方で、国内でも対応機器の多いLDACには非対応だ。
コーデック面ではトレンディなところを押さえるが、核となるオーディオ面については10mm経のDLCドライバーユニットとKnowles製デュアルバランスドアーマチュアを採用したハイブリッド構成となっている。
加えて、本体のDACアンプには旭化成エレクトロニクス製のAK4332を左右独立で搭載する構成だ。
これによって高品質な再生が可能な上、出力レベルそのものが上がるのでハイブリット構成でも難なく鳴らせるだけの基本性能を持つ。
これは同社のMMCX対応イヤホンをTWS化するUTWS5と同等のスペックだ。
FW5の構成は専用DACを間に入れることで、より高音質なハードウェアとしている。
UTWS5と同等であれば、16Ωで53mwの出力を確保できるハードウェアとなっている。これはかつてのウォークマン(15mw)などと比べてもかなりパワフルだ。
明瞭感のあるFiioらしいサウンド。完全ワイヤレスイヤホンの最高峰の1つとなったFW5
旭化成のDACアンプにハイブリッド構成とハードウェアには抜かりないFW5。サウンドにも妥協はないとのことなので聴いてみることにする。今回の試聴曲はこちら
Tokyo 7th Sistersより WONDEЯ GIRL/Roots.
おもかげ(produced by Vaundy)/milet,Aimer&幾田りら
PARADOX/雨宮天
スロウリグレット/田所あずさ
今回の試聴環境はスマートフォンにソニーのXperia 1IVを採用し、aptX Adaptiveの環境で使用する。ストリーミング環境でも単独で24bit/96kHz環境の再生が可能な機種だ。
実際に聴いてみると、TWSイヤホンとは思えない高品質なサウンドに驚く。
Fiioのイヤホンらしく高域のキラキラ感が強めではあるものの、抜けの良さはある。解像感の高いボーカル、量感のある低域、空間表現の巧さは特筆できるものがある。
何より、ハイ上がりと言ったものを一切感じさせないパワフルな出音には驚くばかりだ。
中域から高域にはBAらしいクセはあるが、キラキラとした解像感の高さが特徴となり、特別ざらつきなどは感じられなかった。Snapdragon Sound対応機らしく、ハイレゾを意識したようなチューニングと取れる。
ヴォーカルの表現もBAらしくやや固めの印象を受けた。シルキーというよりは乾いたような表現が適切かと思う。
高域の伸びといった表現についてはコーデックに大きく依存する。伸びやかな高域を体験したいのであれば、aptX AdaptiveやLHDCでの利用を強くオススメする。
AKMのDAC別付けする半ばチート構成なだけあり、完全ワイヤレスイヤホンでここまで上手く鳴らせるのであれば上出来だ。
最初に「スロウリグレット」を聴いてみる。透き通るヴォーカル、高域の広がりも感じ取れるサウンドであることがわかる。解像感の高さから目が覚めるような感覚も味わえ、塞ぎ込まれたような窮屈さや過度な濃密さと表現されるものはない。
続いて「PARADOX」を聴いてみる。疾走感のあるメロディに弾むビートがこのイヤホンではより際立つ印象だ。このような曲調のものだとボーカル付近からBAっぽい音色となってくる印象があり、そういう意味では「分かりやすいハイブリッド型の音」とも表現できそうだ。
曲を「WONDEЯ GIRL」に変えてみる。低域のレスポンスの良さ、窮屈さを感じさせない空間表現に関しては高く評価したい。この曲自体かなり低域が効く物になるが、低音がしっかり効きながらも解像感を持ちつつボーカルなどには被らない。
この解像感とレスポンスの良さは、DLC振動版を採用したドライバーユニット点が生きていると感じられる部分だ。
最後に「おもかげ」を聴いてみる。ベースラインのどっしりとした芯がありながら、一歩前にでるようなヴォーカルの表現が気持ちいいと言える。筆者的にはこのような楽曲との相性が良いように感じた。
ここまで聴いてきて、FW5のサウンドクオリティはかなり高いことが分かる。さすがに有線のイヤホンには劣るが、aptX AdaptiveやLHDC環境であれば有線環境に近いところまで来ている。
同じ2BA、1ダイナミックドライバーのハイブリッド構成であるNoble Audio Fokus Proと比較してみる。
Fokus Proのほうがピラミッドバランスと言えるチューニングで、今回レビューのFW5よりも低域のアタックが強いように感じた。
一方でFokus Proのほうがヴォーカルの刺さりや、分かりやすいBAらしさが抑えられている。この辺りは好みや装着感で選ぶとよいはずだ。
奇しくも同日発売となった高音質完全ワイヤレスイヤホンであるFinal ZE8000とは全く異なるサウンドチューニングだ。
ZE8000がDSP処理をガンガンにかけて独自のリスニング体験を提供する一方、FW5は通常のイヤホンオーディオにおける「いい音」のひとつを示した商品だ。使い分けの用途で選んでも良いだろう。
Fiio FW5のマイク性能などもチェック
さて、音質についてはこの辺りにして、ここからはマイクの品質や操作性について書いてみる。Fiio FW5では音質重視の構成となったため、ノイズキャンセリングは搭載されていない。
やや高価な価格設定ではあるが、サウンドクオリティを考えれば致し方ないとも言える。
通話音質も良好だ。ノイズリダイレクションによってノイズの少ない通話を可能にしている。Snapdragon Sound準拠の高品質通話も可能だ。
音以外の部分もしっかり評価したい。この機種の特徴としてはIPX4相当の防滴対応に加え、イヤホン単体での低遅延モードを備える。音質極振りのNoble Fokus Proに比べたらまだ日常利用でも問題なさそうなスペックだ。
本体は全て物理ボタンでの制御となる。感触のフィードバックがある点はありがたいものだ。一方操作ファンクションはアプリでの変更はできないようだ。
本体に近接センサーは備えていないため、ケースに戻すか再生停止の操作をしないと音楽が流れ続ける。Fokus Pro同様の「線がないイヤホン」くらいの感覚のものになる。
Fiio FW5はFiio Controlという専用アプリもしっかり備え、ここからモードの変更、ソフトウェアアップデートが可能だ。
このイヤホンの特徴としては、DACを別載せしている関係で本体にも独立したボリュームがあることだ。メーカー推奨としては、端末側の出力を最大にし、イヤホン側での音量調整を行うようにとしている。
ボリュームステップは独立で32段となるので、スマートフォンよりもこまめに調整できる点はありがたい。
旭化成のDACを別積みしているだけあって、DACのデジタルフィルター機能まで備えている。一方でアプリ内にはイコライザーは無いので、接続したスマートフォンや音楽プレイヤー側での調整となる。
FW5はバッテリーは本体で7時間、ケース併用で21時間の連続再生が可能になっている。体感的な電池持ちはANC機能などがないだけあって良い。
フィット感についてはやや悪い印象も受けた。これはイヤモニをベースにしたFokus Proに比べても、大口径のダイナミックドライバーを使っている関係もある。購入前に最低でも試着をオススメする。
Fokus Proに比べるとやや悪い印象を受けた。
イヤーピースは通常のもの(左)とHS18(右)と呼ばれるものが付属する。HS18のほうが同じシリコンでもソフトな材質ものとなっている。充電ケースには余裕があるので、Spinfitなどの社外品でも装着したまま充電が可能だ。
完全ワイヤレスイヤホン史上最強クラスを目指した高音質。3万円台の価格も納得
さて、今回レビューのFW5というイヤホン。Snapdragon Sound対応にAKMのDACを備える音質特化の商品だ。
似たものとして過去にAstel&KernからUW100というイヤホンが出ており、こちらもシングルBAという鳴らしにくい構成をAK4377を使ってうまくチューニングしたものになっている。
Astel&KernのUW100
この商品は完全ワイヤレスイヤホンのプラットフォームでDAC搭載+シングルBAという難しい構成にチャレンジしたイヤホンだ。
サウンドクオリティも高いものだが、部品供給の関係で今年4月の発売からわずか4か月で生産終了となった。
Fiioはこのコンセプトでハイブリット構成とし、完全ワイヤレスイヤホンで最高音質の一角を目指した商品として展開している。
実際Fokus Pro辺りと真っ向勝負可能なクオリティに仕上がっており、Fokus Pro、Momentum TW3やZE8000などと共に高音質イヤホンの一角をなすものと考えられる。
アクティブノイズキャンセリングや外音取り込みなど、近年の完全ワイヤレスイヤホンらしい付加機能が無いなどの惜しい点もあるが、高音質ハードウェアによる基本スペックの高さで殴ってくる点は強いと言える。
惜しい点はFiio Controlアプリについてだ。注意点はiOSは問題ないものの、Android 向けアプリは記事執筆時点では日本のPlay Storeで配信されているバージョンが古い関係でFW5と接続ができないようだ。
代理店のエミライのサイトからApkPureのリンクにアクセスできるので、そこからダウンロードすれば利用できる。せっかく設定アプリを備えながらも、配布方法に不安を感じるやり方はあまりよろしくない。
そのような欠点はありながらも、ここまで高い基本性能を持つ完全ワイヤレスイヤホンは少ない。実売価格は3万円となっているが、音質的にも納得できる1台であった。
対応コーデック的にAndroid端末で利用する方が多いと感じるが、ゲームモードはiPhoneなどでも利用できる。
完全ワイヤレスイヤホンにとことん高音質を求める方は、チェックしてみてはいかがだろうか。