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なぜ、スマートフォンの過度な転売はなくならないのか。

 本日、気になる情報が出てきた。一部のドコモショップが店舗ぐるみで、転売ヤーにスマートフォンを販売しているのではないのかというものだ。

 これについては週刊文春が報じているが、複数のドコモショップからMNPは転売ヤーに任せるようなことが起こっているという。背景にはドコモ本部から通達される厳しいノルマが関係しているとしている。

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 では、なぜスマートフォンが転売の対象になるのか?どういうルートで儲かるのか、そんな背景を簡単にまとめてみることにする

 

 

スマートフォンの転売。各社の対策は?


 スマートフォンの転売対策については、大手各社は購入数制限を設けるなどの対応をしている。ドコモではこれに加えて箱に記名などを行っているとしており、筆者自身も過去に iPhone を購入した際はそのような指示を受けていると説明を受けた。

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 総務省の報告書にも「転売ヤー」というものが名指しで出るほど。この問題は深刻である。では、この転売ヤ―はなぜ儲けらけるのか?カラクリを見ていこう。

 

 まず1つは MNP による値引きがある。この回線に関わる値引きは昨今の規制により、上限金額が2万2000円に定められている。

 そのため、大幅な値引きはできないことになっているが、直近では端末本体の値引きを行ってみたり、1円レンタルといった方法で端末を安く提供するなど、規制を回避するような販売方法も見受けられる。これについては過去にまとめている。

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 ただ、売上が厳しい店舗ではそうも言っていられず、規制以上の値引きやポイント還元などを行う話も聞いている。携帯回線に加えて、自宅の固定回線との抱き合わせ、電気や保険などの自社サービスに誘導するような形で強力な割引を持ってくるようなパターンもある。
 その場合は、通常の2万円以上の大幅な値引きを受けることもできるようになっている。仮に初期費用で数万円の出資であっても、最新モデルの iPhone が安価に複数台購入できるのであれば、投資に見合った回収は十分に可能だ。

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 今年も携帯大手4社(KDDIと沖縄セルラーは別カウント)に対して、上限規制に違反した事例があったことで行政指導が行われている。大手では全社となるので、規制が意をなしてないのではという意見もある。

 

 近年では移動器購入と呼ばれる契約を伴わなくても端末が購入できるようになっている。一方で割引の規制上、MNPや新規契約で端末を1円で販売するためには、端末の本体価格を2万2001円の設定にしなければならない。
 高額の割引を本体に適用する例はiPhone SEやPixel  6aなどで見られるが、この価格設定でもかなり安価であり、前述の仕組みを利用して転売目的で購入するものもいる。近年ではこれらの特価端末には販売期間や台数の制限などを設けることによって改善されつつある。

Pixel 6aは安価な価格設定もあって、キャリアでは強力な値引きをされることもある。


 近年では、このような苦境に立たせられるキャリアショップと転売ヤーを仲介する存在も現れているという。規制の関係で、以前のように大っぴらな割引をSNS 上や代理店サイト、ラジオ等のメディアで公開することはできなくなっているため、ショップとしても新規顧客獲得は難しいものになっている。
 そのため、「〇〇の端末をn円で販売する、MNPが今月何本欲しい。加入必須プランはAとB」といった情報を仲介者に流し、閉鎖されたコミュニティ内で案件の紹介、情報交換をしていることがあるという。

 便宜上、この仲介屋は対価として店舗、または紹介してもらった転売ヤーから仲介料をもらう形のものもあるという。店舗と転売ヤーが直接結びつくとは思えないので、間にはこのような仲介屋がいることが自然と思われる。

 

 さて、転売の背景には高価で買い取ってくれる業者の存在もある。一般的に日本国内での流通に関しては、ある程度中古市場の相場は固定されているが、海外向けに買取を行う業者はその限りではない。
 特に iPhone は日本を問わず、世界的にも人気のスマートフォンだ。地域によっては関税などの関係で非常に高額な設定で販売されているところもある。
 そのような地域にハンドキャリーで持ち込み販売する。もしくはその中継点となる香港などに一度出荷するといった形で販売するため、日本向けよりも高価買取が可能だ。このような業者は日本の国内相場よりも2割ほど高く買取価格を設定していることもあり、品薄の機種によっては定価以上の買取価格を設けるものもある。


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 例えば制裁を受けているロシアでは正規ルートでiPhoneが入ってこないため、最新のiPhone 14シリーズは非正規ルートからの仕入れとなる。輸送コストが伴うこともあって、ショップではiPhone 14 Pro(256GB)で108,990ルーブルと日本円で20万円以上の高額な価格設定となっている。

 

 このような業者の特徴としていわゆる未開封品を高く買取る傾向がある。これは地域によっては1度でも開封された商品は未使用でも中古扱いとなり、価値が下がってしまうからだ。
 一方でキャリアで販売されているスマートフォンに関しては、動作確認をしてから販売することを各社指導しているため、基本的に未開封品で出回ることはない。一方で顧客獲得のために、あえて未開封の状態のまま商品を渡す店舗も存在するという。

 

高額のiPhoneを安価に値引きできるワケとは

 さて、このように書いてきて、キャリアは高額なはずのiPhoneを1円や数千円で販売しているのに、なぜ利益が出ているのかと感じる人も多いはずだ

 実はキャリアショップ(代理店)は、基本的にキャリアから原価100% で端末を仕入れている。仮に10万円のiPhone であれば仕入れ値は10万円なのだ。それであれば利益は出ないはずなのだが、キャリアショップが回る仕組みとして挙げられているのは契約数によるポイント制と指摘される。

 

 簡単に言うのであれば、契約につきポイントがもらえるような形だ。例えば機種変更であれば1ポイント、新規契約であれば3ポイントといったものだ。この獲得したポイントに応じてキャリアショップは店舗単位でランク付けされ、成果に応じた奨励金という報酬がキャリアから支払われる仕組みになっている。
 その中でも最もポイントが高いものが他社からの乗り換え「MNP 」である。どこのキャリアもここは高く設定されているのか、 MNP獲得のために大幅な割引を設定したり、乗り換えの特典を用意している。新規契約とほぼ同じ手順、所要時間で多くのポイントをもらえるのなら、各社躍起になるのも理解できる。

 

 つまるところ、キャリアショップは端末の販売よりも「回線契約」を多く得た方が利益の出る構造になっているのだ。20万円近い高額なiPhone 14 Pro Maxを機種変更で販売するよりも、安価なiPhone SEを契約込み1円で販売した方が利益になることもあるのだ。

 

今回はドコモから提示された営業目標のうち、MNPの項目に高い数値が設定されていたという。

 

 余談だが、移動機購入時によく「在庫隠し」と呼ばれることが起こる点も指摘されていた。もっとも在庫があるのに販売しないことは、法令違反となるため指導が入った店舗もある。
 ここについても移動機購入ではポイントが入らず、代理店としては販売を渋った背景がある。販売関係者は「無駄弾を打つようなもの」と触れており、本音では移動機であまり出したくないことがうかがえる。
 確かに0ポイントで端末を販売するよりも、確実にポイントの入る契約をしてくれる客に割引してでも販売したい気持ちは理解できる。

 

 一方で、ユーザー側もバカではないので「これは電気通信事業法(第27条の3)違反になりますが?」「総務省のフォームに通報しますよ」なんて言葉を放つ者もいるという。筆者も前者については某量販店で隣席の方が言っていたのを聞いたことがある。

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転売しやすい仕組みにしたのは総務省の甘さが原因?


 このような転売がなくならない背景として、現行ルールではキャリアショップ、転売屋、そして仲介屋の3者共に全てウィン−ウィンの関係にあるからだ。
 キャリアショップとしては、ノルマが厳しいところを理解のある顧客が契約してくれることになる。このような客は契約慣れしていることもあり、必須オプションも全て加入してくれる。説明等に時間を割かなくても良い点はプラスだ。
 転売ヤーとしては安価に端末を契約、購入することができ、売却することで利益にすることができる。ショップをリサーチする時間や案件交渉の手間が仲介屋の存在で省けることで、買取価格の変動が激しいスマートフォンを即利益化する上で時間的なメリットがある。
 仲介屋はそれをつなぐ役割として手数料をいただくことでプラスになる。もしくは転売ヤーを兼ねている場合もあり、この場合でも損をしない構造となっているのだ。


 今の携帯電話の販売の仕組みは、値引き規制されたにも関わらず転売をしやすい環境を作ったともいえる。SIM ロック解除の義務化、移動機物品購入の遵守、解約金上限制度、2年縛りの廃止と多くの規制緩和や改革がここ5年で行われた。

 改革の結果として楽天モバイルや各種オンラインプランの登場で通信費は安価になり、のりかえ促進には一定の効果があった。一方で「ホッピング」と呼ばれる特典目的に短期間で乗り換えを繰り返すユーザーも増加し問題となった。

 ホッピングについては、解約金もかからず2年縛りもない点が裏目に出た結果だ。加えて移動機購入による大幅値引きでの販売は、「カウンターでお金を払って購入するだけ」という特別な知識を必要としなくとも、スマートフォンの転売を可能にしてしまった。

 上記のような業者の存在を知らなくても、メルカリやラクマといったフリマサイトで簡単に転売できてしまう環境があるのだ。
 
 ここについては、移動機購入をクローズアップして紹介した我々メディアにも非があるように感じる。もちろん、在庫があるにも関わらず移動機購入できない場合は法令違反となるのだが、キャリアが商戦期に10万円ほどする端末の価格を2万2001円に割り引いてくるなど、多くの人は想像できなかったはずだ。

 

 

最後に。キャリアと代理店の関係を見直すべきでは

 転売が横行する市場の要因を作ったのは、総務省が示したルールの見立てが甘かったのかもしれない。根本的に「転売ヤーによる転売を目的とした買い占めを阻止したい」のであれば、今のキャリアと代理店制度そのものを見直す必要がある。
 
 週刊文春が報じたドコモのノルマは MNP 全盛期とほぼ同等の数字だとしている。2年縛りもなくなり、スマートフォン本体の寿命が伸びた今、そのような数字を獲得するのはかなり難しいはずだ。

 その辺りはキャリアも認識があるのか、端末の料金を釣り上げて長期の分割を組むような流れになっている。端末の利用が長期間に及ぶことで乗り換え頻度が減る、もしくは他社への流出を防ぐためにもクレジットカードや固定回線、電気などの付加サービスにも力を入れている。
 実質的なレンタルによる「端末で契約者を縛る」状態から、提携クレジットカードや固定回線、電気などの乗換えにくい付加サービスで縛るような形になってきている。そのために意地でも「他社のシェアを奪える契約そのもの」が欲しいと言ったところだろう。

 ただ、結果としてこれらの付加サービスの説明なども末端の販売員に求められるようになり、販売する店舗の大きな負担になっている。筆者の目線で見ても、携帯電話の販売員が電気料金の説明をしているのは少々おかしいように感じる。

気が付けば携帯キャリアが電気を売る時代になっていた。

 

 最終的にドコモはキャリアショップの数を2025年までに、今の約2300店舗から1600店舗に減らすという方針を示している。それに伴うのスタッフの配置転換や再雇用斡旋などは、恐らく代理店任せとなることだ。お店側も生き残りのために転売ヤーに流してでもノルマを達成し、奨励金を得て給料を支払い、従業員を守ることが責務となる。

 

 だが、キャリア提示の厳しいノルマ達成のために代理店と転売ヤーが手を組むような状態では、それこそ一部のユーザーが過度に恩恵を受ける状態になる。これが正常な状態とは言えない点は誰の目から見ても明らかだ。

 かつての過度なキャッシュバックから「スマートフォン現物」という形を変えただけで、特定のユーザーが「過度の利益の提供」を受ける点は何ら変わっていないことになる。

 どのみち、このようなことが起こったとしてもキャリアは「ルール違反なので当該店舗には適切な措置を行います。」のような綺麗事しか言わない。顧客が明らかに転売ヤーであったとしても、契約を確実に行い、キャリアや代理店の言い分にしっかり従ってくれる。数字上は"優良顧客"という見方もできる。このような"優良顧客"によって生まれる数字をキャリア、代理店共に手放したくないのも実情だろう。

 

 このようなことが事実であれば、管理監督する総務省は転売対策等よりも、改めてキャリアと代理店との関係について、今一度見直しを図るよう是正指導するべきだと感じる。

 正当な対価、評価をキャリアから代理店に対して行わない。捻じ曲がった裏方をしないと商売にならない。総務省というよりは公正取引委員会の仕事には思えるが、この辺りにもメスを入れるべき時期に来ていると感じる。

 現行ルールでは総務省側でどれだけ利用者向けの規制や改革を行なったところで、この関係の根本的な部分が変わらなければ、転売の温床となる本質は何も変わらないのだ。