近年高価格化が進むスマートフォン。直近の量販店売上ランキングを見てみると、上位にはiPhone 13や14の文字がある。廉価グレードとはいえ、10万円ほどするスマートフォンが飛ぶように売れているのだ。
画像はiPhone 13。それでも安い
もちろん、ここまで高価なスマートフォンをポンポン買うユーザーはそういない。背景にはキャリアが新しい形で展開している。実質1円プランといったものがある。
スマートフォンの"1円維持"カラクリとは
この実質1円維持プランは以前に軽く解説したが、高額な端末を48分割で契約し、前半24ヶ月を実質1円、後半24ヶ月で残り分を支払うといったシステムだ。
極端な話をすれば10万円の端末であれば、48分割で24ヶ月目まで1円で維持し、残りの9万9999円を25ヶ月目から24分割を再度組んで(4167円/月額)支払う仕組みになっている。
そこに24ヶ月目でスマートフォンをキャリアに返却することによって、実質的に1円で利用できるような仕組みになっている。キャリアによっては毎月1円ずつの支払いで、実質23円や24円といった売り方をしているがこちらも同じようなものだ。
最後に返却しなければ割引を受けられないこと、利用中に端末が故障した場合は別途請求されることから、内容的にはキャリアからのレンタルと言った表現もできる。自動車の月額1万円オートリースにかなり近いものだ。
"1円維持"に傾倒する理由は2年縛りの廃止と値引き規制か
さて、実質1円のカラクリは簡単に説明したが、なぜキャリアがこのような売り方をするようになったのか?というところを考えてみる。改めて見てみると、2年縛りがなくなったこと、値引き規制が関係してくるようだ。
近年のスマートフォンは比較的長く利用できるようになっている。iPhone では長期のOSアップデートも行われ、バッテリー等の部品の劣化はあるものの、基本的に4から5年は利用できる商品になっている。
Android スマートフォンでも、Pixel を始めとして長期のアップデートが保証されている機種が近年は増えてきている。そのようになってくると、携帯電話の乗り換え頻度そのものが少なくなっているのだ。
Pixelは長期サポートも売りにしている。
実際、MMD研究所のデータでもスマートフォンの平均利用期間が4.8年という数字が示す通り、携帯電話を乗り換える頻度が少なくなってきている。
かつては2年縛りのタイミングでキャリア乗り換えも手引できたが、縛りが廃止された以降では、このタイミングが機種の故障や劣化と言ったところになってしまう。2年だった乗り換えタイミングが4年から5年といった数字に変わってきているのだ。
加えて少子化も進み、新規顧客の獲得も難しくなっている。高齢世代のスマートフォン乗り換えに関しても、多くのユーザーがこの10年で乗り換えたこともあり、近年の3G回線からの乗り換え需要はかなり少ないものになっている。
一方で携帯電話の販売台数にはノルマがあると言われている。特にAppleはそのノルマがかなり厳しいと業界筋では言われている。
そうなるとノルマのために台数を売りたいキャリアと、乗り換え頻度が少なくなっているユーザーとはミスマッチになってしまう。
加えて、回線に関わる端末の値引きも2万円の規制が入ったことで、売りたい機種に対して過度な値引きをして売ることもできなくなった。言い方は悪いが、値引きを餌にして強引に客を引っ張ってくることもできなくなったのだ。
そこで、キャリアとしては高額な端末を割引する条件として、端末側の分割期間を長期化して25ヶ月目での本体返却を前提とした値引き策を講じている。
確かに高額な端末を2年間でほんの数十円で利用できるのであれば、とてもお買い得なものだ。どのみち電話の回線自体は利用するので、あくまで回線料金を支払いつつ、本体の分割料金はかなり抑えられるといったものだ。
確かに iPhone 13が月額1円で利用できるのであれば、予備として欲しい方もいるはずだ。仮に回線を解約しても端末の利用料金だけ支払い、2年後にキャリアショップ等で返却の手続きをすれば良いだけである。
ドコモではコストを抑えるためにOCNのエコノミー、ソフトバンクではワイモバイルへの移行も店頭で案内されるほどのものだ。
加えて、転売にも対処した形となっている。格安の分割利用となっているため、転売対策にもなっている。実際に日本では利用制限というものがある関係で、分割払いが行われている携帯電話は中古での販売が難しいものになっている。
加えて、キャリアも端末を回収することによって、しかるべき中古市場に流すことができるようになっている。中古市場の活性化の名のもと、キャリアも貢献できるような形だ。
"1円維持"はこれからの高価な端末を安く使うやり方になるか
さて、直近では Google の Pixel 7、iPhone 13に限らず、iPhone 14や14 Plusも月額1円とかなり安価で利用できる形となっている。Xperia 5IVについても発売直後に月額1円維持で販売されるなど、昨年から非常に話題になっている。
特にドコモではPixelといった目玉のAndroid端末があまりない以上、iPhoneの販売に力を置いてるような印象だ。
このような売り方をされる端末の特徴としては、概ね10万円前後の端末で「キャリアがある程度売りたい商品」という形になっている。例えば1年前に販売されたハイエンド端末の在庫や、一定の数を販売しなければならない端末といったところだ。
前者ではGalaxy Z Flip3やAQUOS R6、Xperia 5IIIが発売から1年経過してこのような売り方で販売された。後者はiPhoneやPixelが当てはまるはずだ。
さて、このような1円維持と言ったものが生まれた理由は、キャリアがどうしても端末を販売したい思惑、各種規制や制限の撤廃、現行の代理店評価制度に基づいての最適解といったところになっている。
見かけ上のランニングコストを抑えるようにし、端末そのものは売ることができる。端末の部分から値引きをしていることもあり、値引き規制の対象にはならない。契約を取らないと評価されない現行の代理店制度では、一括1円端末を移動機で購入されるよりは、1円維持端末を回線契約をして利用される方が評価が高いものになる。
5万円前後のミッドレンジ端末だと大幅な本体値引きを行って、一括1円で販売する例がある。一括1円の端末は確かにキャリアとしても強いが、端末のみ購入の場合は契約が取れないなど、必ずしも良い側面ばかりではない。
現行の代理店評価制度上は、確実に契約を取ることができる「1円維持」の方をメインで扱っていきたいはずだ。
さて、このような1円維持はキャリア側の思惑が多く絡んだ売り方になっているように感じる。格安維持させる原資について疑問になるだろうが、それはかつての値引きと同じく利用者から集めた通信料になる。
利用者が携帯電話を安価に利用できるという点では非常にありがたいものだが、レンタルというような形に違和感を覚える。ユーザーも多いはずだ。
次回の記事では端末のレンタル施策について、実際にお得なのかどうか利用すべきなのかと言ったところを考えてみる。