人気VRSNSである「VRChat」のスマートフォン向けクライアントが開発されるという報道が出ている。今後3ヶ月を目安に先行して、VRChat Plusという有料ユーザーに対してAndroid端末向けから解放されるようだ。
VRChatがスマホで遊べるぞ
ただ、これについてスマートフォンの推奨スペックについては、大きく触れられていない。いざ利用するにあたって、自分のスマートフォンは大丈夫なのか?という不安に駆られるは少なくないはずだ。今回はその辺りを考察していこう。
スマホ向けVRChatの推奨スペックはSnapdragon 865クラスか。3年前のハイエンドスマホの性能が求められる
スマートフォン向けVRChatでは、Meta Quest向けに最適化されたコンテンツがすべて動くとしている。
Meta Questをはじめとしたこの手のスタンドアローンVRゴーグルは、クアルコムのプロセッサを採用しており、OSもAndroid ベースになっている。
このため、Androidスマートフォンに比較的近い仕様となっており、先行リリースもAndroid版が早いのも納得がいく。
仮にこの仕様であれば、スマホ向けではPC 向けのアバターを使用できず、PC向けワールドへ入ることはできない。また、表示ポリゴン数の制約といったQuest版同様の制約がある形となる。
公式がスペック周りとして触れているものとしては、「メモリが6GB以上」とのみ記載されており、その以外の詳細なスペックについては現時点では触れられていない。
公式ページでは6GBとなっている
これについては、推奨環境にあたるスタンドアローンVRゴーグルのスペックに起因するものと考える。安価なことで多く普及した「Meta Quest 2」はSnapdragon XR2プロセッサと6GBのメモリを採用している。メモリ6GBの根拠はここから来ていると考えるべきだ。
Meta Quest 2はSnapdragon XR2と6GBのメモリを採用する
そうなると、スマホ向けVR Chatの推奨環境はおのずと見えてくる。Quest 2を基準とした場合はSnapdragon XR2に相当するプロセッサ性能が必要になる。
これはスマートフォンで言うところのSnapdragon 865に該当し、相応の性能が求められることが分かる。
Snapdragon 865と言えば、2020年に販売されたハイエンドスマートフォンのプロセッサだ。3年落ちのハイエンドで動くと考えれば安心できるが、ミドルレンジと言われるスマートフォンでは今現在でもかなり厳しいものと考える。
Snapdragon 865を採用した機種はGalaxy S20やXperia 1II、AQUOS R5Gといったところになる。
ミドルレンジにおいて、日本で発売している機種ではnothing phone(1)やXiaomi 11TはQuest 2とスペックが近いものとなるが、若干GPU性能が足りないといったところになる。
公式が触れている「メモリ6GB」については、この世代以降のスマートフォンであれば、廉価な機種を除くと概ねクリアしていることが多い。
ただ、近年では仮想メモリの容量も合わせて表示している機種もあるため、この辺りはよく注意して選んでいただきたい。
もちろん今のQuest 2でも重たいと感じる場面はある。利用シーンで欲を言えば、もう少しメモリが欲しい、GPU性能が欲しいと思う場面もあるくらいだ。
Quest 2が採用するSnapdragon XR2の実性能はSnapdragon 865相当。これに、高解像度な映像を両目分出力した上で最大120Hzの描画まで行う。加えて、複数のカメラやセンサーで得た情報をリアルタイムで処理させている。
そのためQuest 2では空冷ファンを用いた冷却が行われている。スマホ向けでは描画負荷は少ないとはいえ、Snapdragon 865を最高クロックで常にぶん回すだけの高負荷なコンテンツであることは考えた方がいいはずだ。
仮にもそのままスマホ向けに移植したなら、画質次第では原神並みの高いスペックが要求されるコンテンツとなるはずだ。
そのため、筆者としてはSnapdragon 888もしくは、それに準ずるスペックがある意味推奨になるのではないかと考える。Quest 2よりも1段階余裕をもたせたほうが安心できるはずだ。
Pixel 6aくらいの性能は最低でもほしいところだ
ちなみに動作要求の最低ラインはSnapdragon 835 メモリ4GBと考える。これはOculus QuestのスペックがSnapdragon XR1、メモリ4GBであるところから推察している。
ただ、Oculus Questは現状のVRChatを動かすだけでもかなり厳しいので、あくまで入ってコミュニケーションを楽しむ程度になるはずだ。
また、iPhone向けのVRChatについても開発を進めているとのことだ。ただ、アプリの審査などの関係で、Android 版よりは遅くなってしまうことが触れられている。
こちらについてもSnapdragon 865と同世代のApple A14(iPhone 12以降)のスペックは余裕を見て欲しいところだ。
仮にこの仕様であれば、PC 向けのアバターを使用、PC向けワールドへ入ることはできず、Quest版同様の制約がある形となる。また、表示ポリゴン数の制約などもあるはずだ。
VRChatのスマホ対応で何が変わる?
さて、 VRSNSの1つ障壁となっていたのは敷居の高さだ。最低でもそこそこのスペックのあるパソコンが必要となり、最大限に楽しむには、VR ゴーグルはもちろん、必要に応じて各種モーションキャプチャーなどの機材も必要になってくる。
このコスト面における敷居の高さがスマートフォン単体ならぐっと下がるのだ。
体験が主体となるこの手のSNS は「人から聞いた」「動画で見た」だけでは魅力が伝わりきらない。制約はありながらも、興味を持ったユーザーを振り向かせるにはスマートフォン対応は大きな力になる。
VRChatはやっぱり体験しないと面白さは伝わりきらない
また、 VRChatの今後のユーザー獲得にあたって、アフターコロナも少なからず影響しているはずだ。コロナ禍において在宅時間が非常に長かったこと、行動制限等で外出してもなかなか自由に動けなかったことから、この VR SNSが「第2の空間」として生きてきた背景がある。
今まで通りの生活に戻ろうとしている時にスマートフォンで入れないということは、「PC向けのゲームのようなコンテンツ」になってしまうことを意味する。VR Chatはまだ世間一般の人が考えるような、手軽でどこからもアクセスできるSNSではないのだ。
そのため、家にいる時は何とでもなるが、外出先ではほぼ機能できないSNSとなっていた。そういう意味ではDiscord と連携して使う状態で、SNSというよりはゲームに近いコンテンツとなっていた。
そのため、スマートフォン対応化は本来の意味でSNSに近づける部分でも重要だ。既にClusterのようにスマートフォン向けで展開しているものもあるが、VRChatに比べればユーザー数も少ないものが現状だ。
最後になるが、VRSNSのスマートフォンにおける台頭化は、スマートフォン等の進化を押し上げる可能性もある。この15年で画像や動画を手軽にアップロードし、誰でも閲覧できる時代になった。次の時代は、空間そのものを手軽にアップロードできるようになるかもしれない。
LINEやDiscordのグループチャットが、このようなSNSに置き換える可能性だって多いにしてあるのだ。
こうなれば高性能なスマートフォンはやはり求められ、現実のオブジェクトをVR空間に持っていけるようなハードウェアに変わってくる。5Gがアピールする高速大容量、低遅延通信も生きてくる。
大画面の折りたたみ端末は、そのようなオブジェクトをより大画面で見たいと言ったニーズも応えられる。
メガネ型のアイラブルデバイスもスマホ連携の道を行くのか、単独でスマホから置き換えるのかまだ未知数だが、より進化していくのではないかと考える。
VR SNSのスマホ対応化は、5G時代における「次の時代のあたりまえ」ともいえる存在と考える。VRChatのスマホ対応は、そのきっかけとなるのではないだろうか。