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京セラのスマートフォンが売れなくなった理由を考える

 5月15日、京セラは一般向けの携帯電話事業から撤退する方針を明らかにした。タフネス端末の「TORQUE」をはじめ、多くの機種が出ていたが、なぜ売れなくなったのか。改めて考えてみたい。

 

手広く携帯電話、スマートフォンを手掛けていた京セラ

 

 京セラといえば、主にauやソフトバンク(旧ウィルコム)向けに端末を供給していたメーカーだ。高い耐久性をもつ「TORQUE」(au向け)のほか、一般向けスマートフォンの「DIGNO」などの自社ブランド製品を多く展開していた。

 

 このほか、中、高年層をターゲットにした「URBANO」(au向け)のAndroidスマートフォンを全機種担当している。また、過去には若い世代をターゲットにした「HONEY BEE」をウィルコム(後にソフトバンク)に提供していた。

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HONEY BEEはポップなカラーリングで若い女性を中心に支持を集めた。ターゲットとした層は同社の安価な定額通話サービスとの相性も良く、このサービスにて長電話を行う間柄を「コム友」と当時は呼んでいた。

 

 直近のスマートフォンは廉価モデルが中心の京セラだが、かつてはハイエンド端末も製造していた。2013年発売の「DIGNO M」ではSnapdragon 800を採用するなど、ハイエンドらしい仕上がりとなっていた。

 

 また、URBANO L03やV01もSnapdragon 801を採用。ベースモデルがV01となった高齢者向けスマートフォンである「BASIO KYV32」も同様のSoCを採用している。

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高齢者向けスマホにもハイエンドSoCを採用するなど、攻めた構成の機種もあった。

 

 このほかタフネス端末の「TORQUE」や、世界初の「ハンドソープで洗えるスマホ」ことDIGNO rafieが登場するなど、個性的な端末も多く発売された。

 

 さて、読者のみなさんはこのラインナップを見てどう感じたことだろうか。ピンとくる方がいても、TORQUE以外は「あったなー」と過去形の印象が強いことだろう。ここでパッとしたものが出てこない点が、京セラの弱い部分となった。

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また、ワイモバイル向けに展開した「Android One」端末も滑り出しは好調だった。比較的安価ながらも2年間のOSアップデートが保証され、耐久性の高さもアピールされていた。

 

スマホが売れなくなった。理由は得意とした客層と「壊れない」スマートフォン

 

 京セラのスマートフォンの強みは「物理的に強い」以外に無かったと言っても良い。これはTORQUEのイメージが強いこともあるが、最終的に同社のスマートフォンは、どの機種をとっても高い耐久性を売りにしていた。

 

 このような京セラの「全機種タフネス路線」は他社との差別化という面では良かったものの、同社が得意とした"スマートフォンにあまり関心の無い層"や"シニア層"を狙った商品展開としては相性が悪かった。

 

 これらの層には関心の薄さから「壊れるまでスマートフォンを使う」という方も多く、同じ機種を6〜7年以上利用していることも多い。そこに京セラの「壊れにくい頑丈なスマホ」を組み合わせると、そう簡単に壊れないことからユーザーの機種変更が発生しないのだ。

 

 特に高齢者向けのスマートフォンは顕著で、多くの場合、物理的に破損するまで使用することが多いという。筆者の祖母も機種変更したが、きっかけは3Gの停波(利用できなくなること)であり、停波しなければ同じ携帯電話を10年以上使っているような状態となっていた。

 このような例もザラであり、通常のユーザーの平均的な乗り換えサイクルよりも2倍以上利用している形となる。肝心のリピーターのリピート頻度が競合他社のスマートフォンに比べて、明らかに長期化していたことも売上に苦戦した理由の1つに挙げられる。

 

 これはTORQUEにも当てはまり、こちらは発売ペースは2年に1回だ。その一方で、あのスマホは2年やそこらではそう簡単に壊れない。堅牢性の高さがある意味で裏目に出てしまった。加えて予備バッテリーなどの提供、耐久性の高さから「換えがきかない」こともあり、機種変更が少ないとものであった。

 

 そして、新規の顧客を掴むことも難しくなった。通信と端末の分離化が進み、以前のような縛りもなくなった。海外勢の参入もあり、廉価なスマートフォンは激しい競争となった。京セラは廉価でも国内メーカーという強い立ち位置ではあったものの、ここにシャープ、ソニー、FCNT(富士通)が本気で参入してくるとなれば話は変わってくる。

 

 特に京セラは大手3キャリアで同じ機種を展開できなかったこともあり、出荷台数ではFCNTはおろか、Google Pixel よりも下回っていた状態だ。そのような中で、他社と差別化を図った魅力的な端末を出せなかったことが、撤退の要因にもなったはずだ。

 

強みのTORQUEもauあってこそ。企画力の無さとイメージ一新もできなかったことが撤退の要因か

 

 京セラが携帯電話の撤退となった要因は端的に言えば売れなかったこと。それと同じくして、京セラの企画力のなさもう浮き彫りになったと考える。今や京セラのスマートフォンの代名詞となったTORQUEだが、これが今の形になった背景にはauのプロデュースが大きく影響している。

 

 auはこのスマホをただ頑丈なだけでなく、登山やアウトドアスポーツなどの用途を想定したアプリの開発やプロモーションを打ったのだ。落としても壊れにくく大丈夫…だけでなく、これだけ堅牢なボディだからこそ山に持っていこう!川に持って行こう!とアピールしたのだ。

 

 海水対応になった世代からは海釣りやサーフィン、ダイビングなどにも対応。このような背景からマリンレジャーを楽しむ方以外にも、日常的に海水の近くで業務を行う漁業や港湾関係者からも注目を集めた。

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TORQUEについては建設業の他、運送業、漁業や港湾関係者などにも強く支持されている。

 

 これは20年以上、タフネス端末をコンシューマーに売り続けたauだからこそできるものである。 

 

どのように利用されているのか?

どのような端末が求められているのか?

 

 この辺をしっかり商品企画に反映させた結果、ユーザーの支持に繋がっている。仮にも京セラ単独で企画開発を行い、DIGNOなどのように"ただ強いだけ"のスマホにしかなっていなかったら、今のような注目はなかったと考えられる。北米のように、日本でももっと早くに市場から撤退していた線もあったことだ。

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日本においてタフネススマホ=TORQUEといえる認知度まで持ち上げたauには評価したい。

 

 そのほかにはauがドコモの「mono」や「d-tab」に対抗するための「Qua」ブランドの端末製造を担当したり、奇抜なデザインのinfobarもいくつか担当した。子供向けの携帯電話や高齢者向けのスマートフォンはニッチだが、製品企画にはキャリアの力が大きいと言われている。

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バルミューダの「BALMUDA Phone」の製造を担当したことも記憶に新しいはずだ。

 

 この辺りもキャリアや他社の企画を形にしたもので、京セラ単独の企画ではない。そのため、単独色の強いDIGNOブランドやAndroid One端末だけを見ると、本当に魅力的と思えるものがないのだ。

 低コストという制約の中で商品を企画することは難しい。売れなければ開発費の回収も難しくなり、マイナーチェンジで食いつなぐ。製品もマンネリ化していくことは、過去に同じ道をたどったメーカーからも明らかだ。

 

 その一方、シャープやFCNTは堅実な商品を展開している。無難な作りでもキャリア相手の得意分野に注力し、海外メーカーが入っていけないユーザーにしっかり届けているのだ。また、京セラが展開していたAndroid One端末の強みであった「安くて確実にアップデートが行われる」点も、シャープやFCNTに追従され、明確な強みではなくなってしまった。

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シャープのAQUOS WishやFCNTのarrows Weの存在は、京セラにとって大きな逆風となった。

 

 

 そしてもう1つがイメージの悪さだ。これについては京セラのとった戦略も影響している。同社がハイエンドスマホを出していた頃は、まだまだ成熟していたとは言えず、発熱、フリーズ等のソフトウェアの不具合、電池持ちの悪さなどが露見したものだった。

 

 このような悪いイメージの中で京セラはハイエンドから、廉価帯のスマートフォンに軸足を移した。このため、スペック等に興味を持たないユーザーからも以下のような意見も出た。

 

乗り換えたら以前よりも性能が落ちた。

ブラウザすらまともに動かない。

ハードは強くても、ソフトが全く追いついていない

 

 特にこのような機種は「初めてのスマートフォンにおすすめ」とキャリアが打ったこともあり、単に性能不足となってしまったことも多かった。黎明期のチューニング不足からなるイメージの悪さに加え、アプリが満足に動かないという点でもマイナスイメージを増長させてしまったのだ。これは性能が低くても、それ以上の耐久性を付加価値としたTORQUEを除くとかなり厳しい状況だったのだ。

 

 いわゆる知識もないまま選ぶと、ハズレを引いてしまう。そのような意が転じてか、ネット掲示板では「凶セラ」と書き込まれることもあり、この問題の根深さを物語っている。

 

 最後にはなるが、京セラのスマートフォンはキャリアが求めるものを作る。これだけではなく、自社のブランドをしっかり育て上げ、伸ばすところをしっかりアピールした商品が必要だったと考える。

 

 中途半端にタフネスをアピールし、TORQUEの劣化版と言われる機種を連発していては、同じくMILスペックのAQUOS Wishやarrows weと勝負しても勝てないことは容易に想像できる。選択と集中を図った今回の決断は英断だと思う。

 

 

 TORQUEは法人需要でも高い支持を得ているため、開発は継続されているが、他の機種についてはほぼ撤退の形となってしまった。今回は京セラの撤退理由として得意とした客層がスマートフォンの買い替えサイクルが長く、リピーター獲得に繋がらなかったこと。

 市場調査が甘く、企画力に乏しい結果から魅力的な製品を出せなかったこと。従来の悪いイメージを引きずったまま廉価帯にシフトした結果、性能が低いというイメージを消費者に植え付けてしまった。これらの要因によって京セラは撤退したのではないかと考える。