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arrowsを展開したFCNT、TORQUEを展開した京セラが携帯電話事業から同月に撤退。背景にある根拠のない「2万円の値引き規制」の影響とは

 本日arrowsシリーズのスマートフォンを展開していたことで知られるFCNT株式会社が、民事再生法適用を申請した。5月15日に京セラがコンシューマー向け携帯電話事業から撤退したニュースに続き、FCNTも事実上の携帯事業からの撤退となる。

 このような結果になった背景には、どちらも共通して総務省の2万円値引き規制が大きく影響していると考える。

 

FCNTと京セラの共通点。廉価な機種が中心のラインナップ


 FCNTと京セラが販売したスマートフォンの共通点は、供給している端末の価格帯だ。コンシューマー向けの携帯電話は、ハイエンドより廉価な機種で売り上げを占める傾向があった。

 

 FCNTの場合、2019年の規制後からハイエンド機はほぼ展開せず、2020年発売の「arrows 5G」が唯一の存在となった。売り上げの主軸はドコモ向けの「arrows Beシリーズ」や「らくらくフォン」、各社に展開したガラホの「arrowsケータイ」、同社初の3キャリア展開となった「arrows We」となる。

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3キャリアで100万台を販売したarrows We

 

 京セラもau向けの「TORQUE」は著名だが、それ以外の機種はワイモバイル向けのAndroid One端末など、やはり廉価な機種やガラホが中心となっている。

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TORQUEは高耐久スマホとして認知されている

 

 廉価な機種の販売は、1台あたりの利益率が低いと言われるものだ。特にこの2社は5万円以下の製品が多く、高付加価値を持つ商品がかなり少なかったのだ。
 
 廉価でもキャリアの施策に乗れば、数は売れるので売り上げや市場シェアは確保できるが、安定して利益を得るには従来以上の台数を販売するか、中身をコストカットするなどの企業努力が必要になってくる。


 昨今の携帯電話の買い替えサイクル長期化も、高付加価値商品が少ない2社にとっては強い逆風となった。

 

廉価端末へのシフトはキャリアにて2万円規制の下で数を売るための苦肉の策。

 

 さて、これらのメーカーが撤退に追い込まれた背景を見てみる。もちろん、どちらにも開発力不足や既存のイメージの悪さ、個性的な商品を生み出す企画力の無さなども少なからずあったはずだ。

 それと同じく廉価な端末の販売にシフトし過ぎたことによる、利益率の悪化が原因のひとつと考える。このような路線にシフトした理由は、総務省の改正電気事業法による携帯電話の値引き規制だ。これが、上限2万円(税抜)となったことで、従来のような値引きはできなくなった。

 

 また、FCNT、京セラに共通してキャリアへの依存度が高いメーカーであった。どちらも「自社の強み」が他社に比べて希薄なメーカーであり、オープンマーケットに参入しても十分な存在感や売上げを出せずに、直近ではキャリアのみに提供していた。
 
 この構図は、端末供給をキャリアへ強く依存する結果となり、高付加価値を持つハイエンドではなく、廉価端末中心の供給となる遠因となった。


 そして、キャリアがこの価格のスマートフォンを欲しがった理由は、規制下でも無条件でMNP一括1円などの設定にできることだ。割引によって、より廉価にキャリアも販売しやすい目玉商品となる。国内メーカーという箔もアピールする上では大きいものだ。f:id:hayaponlog:20230530222521j:image
FCNTではドコモ向けにarrows Beシリーズを展開。基本的に2万2000円以下に抑える「廉価な端末」とし、規制下でも1円販売を継続させた。

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 京セラについては、現時点の供給先がソフトバンクのサブブランドとなるY!mobileが中心となる。安価を売りにするサブブランドへの供給は、求められる端末価格も必然的に安価なものとなる。

 

 
 そして、このように廉価端末中心のラインナップに変化したことで、まず同じ台数を売っても利益が減少した。携帯電話の自由化によって2年縛りがなくなった事で、「乗り換えのきっかけ」がひとつ失われた点も大きな機会損失だ。


 利益が減れば企画開発コスト、研究コスト、広告コストも必然的に少なくなり、魅力的な商品の企画開発、独自技術の搭載、キャッチーな告知も難しくなってしまった。そして、末期は首をつなぐ程度の商品しか出せずに主力機種もマンネリ化、最後には撤退…FCNTと京セラはまさにこのような負のループによって撤退となってしまった。
   

根拠のない2万円規制。キャリアの法外なiPhone優遇の果てに散った日本メーカー

 

 最後に、これらの機種を苦しめた値引き規制をチェックしてみよう。キャリアの要望とはいえ、2〜3万円の低価格で利益率の低い商品の展開をメーカーに強いるきっかけとなったものが値引き規制だ。


 この規制における「2万円」という設定に明確な根拠はない。実は値引き規制の「2万円」の数字は予測に基づいたものだ。基準の算出方法こそあれど、その数字から「1段階下げた」ものが2万円などという結論から決まったものだ。そのため、設定当初から明確な根拠がなく、有識者会議では様々な物議をかもしていたものであった。


 また、この規制には過度に値引きされるiPhoneに対して国内メーカーが「あまりに不健全すぎる」と意見した事もあり、公正な競争にて国内メーカーを守るような側面もあった。


 それでも、大手キャリアは「端末価格を2万2000円まで値引きする」という抜け道を使い、規制を掻い潜る販売方法で、iPhoneやGalaxy、Pixelと言った人気機種を法外な価格まで値引きして売り捌いた。本来なら6万円以上する機種を廉価端末と同等か、より好条件で販売するなど、規制前以上の不健全な状況を作ったのだ。

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ハイエンド機種ですら2万円で売ってしまう。


 これでは公正な競争で守るはずの国内メーカーを、キャリアの法外な値引きと総務省の無策で「完膚無きまでにつぶしてしまった」と言うのは皮肉なものだ。


 そして今年度に入り、総務省もやっとこの値引き規制の見直しに着手した。
 上限の算出方法は従来のものとなるが、最新のデータに基づき。値引き上限を4万円に見直す方針となった。合わせて「廉価な端末」も4万円以下の端末としている。

 

 奇しくもこの方針が示されたWGが行われたのは、FCNTの民事再生法適用(事実上の倒産)の報道が出た3時間前のことだった。もはやこの2社にとっては手遅れなのである。

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電気通信事業法第27条絡みの見直しをテーマに規制緩和の話が出てきたWGもタイミングが悪すぎた。


 今となっては、あと1年早く値引き規制に対応していれば、極度な低コストで端末を作る必要性もなく、京セラやFCNTの撤退はまだ回避できたのかもしれない。以前から値引き上限金額の検討は有識者会議等でも議題に上がっていたが、本格的に決め出したのはここ最近になってから。本当に何もかも遅すぎたのだ。

 

 

 ただ、現在の改正電気通信事業法を制定した際に、その附則にて「3年ごとに見直しをする」といった文言が記載されていた。今回は施行した2019年から22年と3年が経過し、それに則った見直しとなったが、それ以前から明らかに不健全な市場、転売ヤーによるトラブルが問題となっていた。
 
 確かに回線契約に伴う2万円以上の過度な値引きについては、総務省も行政指導を行なったものの、定価を2万円に下げる販売方法は「過度な値引き」に該当しなかった。
 これを問題視しながら、現状を野放しにし続け、今年2月に公正取引委員会が横槍を入れなければ、落ち着くことすらなかった。


 最初期の値引き上限規制の見立ての甘さ、不健全な市場状況や転売ヤー等の問題を認識してもすぐに改善しない姿勢。

 これによって日本メーカー複数社を携帯電話事業から撤退に追い込んだ要因を作った総務省。高額な人気機種を、法外な値引きで売り捌いて不健全な市場に仕立てた大手携帯キャリアの責任は重いと考える。

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