中国では4万円前後で購入できる「ミッドレンジのゲーミングスマートフォン」をはじめとした、コストパフォーマンスに優れたハイエンドスマートフォンという商品がある。
これは名の通りゲームのパフォーマンス、大容量バッテリーなどに重きを置いた商品が多い。
日本でも販売してほしいという声はあるものの、多くの商品は投入には至っていない。その理由を考えてみよう。
実は日本で「コスパハイエンド」はニッチなスマホ
筆者としてはこの手のスマートフォンが、日本市場では非常にニッチな存在であることが市場投入されない理由と考えている。根拠としては、以前にまとめた日本人がスマートフォンに求める「三種の神器」こと必須機能の存在だ。
2年ほど前にまとめた古い情報にはなるが、その際は上からFeliCa(おサイフケータイ)、生体認証(指紋認証や顔認証)、防水防塵機能の形でランクインしている。
その際に上位10位まで集計したが、この中に「快適なゲーム性能」をはじめとした「パフォーマンス」に関する項はランクインしていない。この集計は筆書のフォロワー向けに行なったものなので、マニアの回答が多いと考えられるが、この中にも入ってこないことを考えると相当ニッチだ。
つまるところ、スマートフォンに対して高いプロセッサ性能やゲーム性能”だけ”に特化した機種は日本ではあまり求められていない。一因には多くのユーザーが高性能なiPhoneなどに慣れきっており、性能だけに特化した機種に対して関心が低いことも考えられる。
仮に性能が劣っていたとしても、おサイフケータイや防水機能をしっかり備えた機種の方が日本では受け入れられると考える。ゲームには不向きと言われるGoogle Pixelが通信キャリアを含め大きな支持を獲得している理由もこの部分だ。
また、ゲーミング性能に関心のある層はそれこそiPhoneに加え、ROG PhoneやREDMAGICといったゲーミングスマートフォンが選択肢に入ってくる。そのような機種と比較すると、見方によっては中途半端に映ることだ。
そして、このような尖ったスマートフォンは、通信キャリアやMVNOが積極的に扱いたがらない端末だ。価格が安くてゲームが快適に遊べる代償が「防水性能で劣り、おサイフケータイに対応しない」のであれば、なかなか選んでくれるお客さんは少ないのだ。
先日レビューしたvivo iQOO Z9 Turboも指紋認証などは備えているが、防水性能はIP64と防滴程度に留まる。日本向けの機種ではないので、おサイフケータイの機能は備えていない。
パフォーマンスを求めるユーザには受けると思うが、前述の求められる機能面の中に高性能なプロセッサーが入っていないことから、日本市場ではどちらかと言うとニッチなスマートフォンだ。
高いゲーム性能を4万円ほどで実現したiQOO Z9 Turboも日本市場になぞると「ニッチな機種」だ
日本でコスパハイエンドスマホ。実際に発売されたらどうなる
仮にもこの手のスマートフォンが日本に上陸した際、実際に普及するのだろうか。そのヒントはXiaomiの「POCO」にありそうだ。
今年発売のPOCO F6 Proの売り上げ台数は不明だが、初動で各ECサイトのSIMフリースマートフォンのカテゴリーで首位をとるなど、ネットユーザーを中心に高い注目度を示した。本機種はハイエンド機種向けのチップ「Snapdragon 8 Gen 2」を採用しながら、価格を税込み6万9800円とした。当時の為替相場を考慮すると日本は世界最安地域のひとつになった。
POCO F6 Proは高いコストパフォーマンスで注目を集めた
一方で、端末はおサイフケータイや防水には非対応だ。コストを抑えるために販路をオンラインに絞るなど、個人で引継ぎや各種設定が可能なユーザー向けの機種だ。
筆者もレビューしたが、高いコストパフォーマンスを備えるものの「玄人向け」と評価したい機種だ。決済周りはNFC決済やバーコード決済を中心に利用したり、おサイフケータイ対応のスマートウォッチと組み合わせれば解決するが、やはり一般には少々難のある機種だ、防水非対応な点も含め、使う人を選ぶスマートフォンだ。
ここはXiaomiの戦略にも現れており、日本では下位モデルの「POCO F6 」を販売していない。投入していれば税込み5万円台の「ハイパフォーマンスモデル」であったが、社内で近い価格帯に位置するRedmi Note 13 Pro+と競合することから取り扱いしていないものと考える。
もちろん、今回挙げた「コスパハイエンド」が日本でも大きな需要があると分かれば市場に投入しているはず。今回見送ったということはPOCO F6 よりも、スペックは劣るがIP68防水とおサイフケータイを搭載したRedmi Note 13 Pro+の方が日本で注目されるという結果と考える。
日本では発売されなかったPOCO F6(写真は中国版のRedmi Turbo 3)
このような結果から、コストパフォーマンスに優れるハイエンドスマートフォンは特定のユーザーには刺さるものの、その総数はかなり少数だと考える。ネットユーザーを中心に注目を集めた点も含め「知る人ぞ知る」の立ち位置だ。
また、メーカー側も非常に調整が難しいセグメントの機種と考える。おサイフケータイに対応しないと通信キャリア向けの採用は難しく、公開市場では価格がより表面に出てくる。
仮に出したとしても、日本向けに各種最適化や認証取得した結果、税金や為替を踏まえると海外向けより高価になってしまうことも考えられる。
低コストが売りの機種で高価になってしまうと、敏感な消費者には「輸入した方が安い」「日本版はぼったくり」などと指摘が飛んできてしまう。非常に難しいラインだ。
そもそもこの手のスマートフォンの多くは、国の規制でゲーム機市場がほとんど発展しなかった中国市場という特殊な環境下で生まれたものだ。廉価なスマートフォンの一部は携帯ゲーム機の代替えに近い需要を担っており、価格設定やハードウェア構成も含めて他国にはない特殊な存在だ。
加えて、中国には特定機種に対して最適化されたゲームなども多く存在する。「遊んでいるゲームが最適化されているから、このスマートフォンを購入する」といった選択方法もあるのだ。ある意味、中国市場で存在感を示すために特化したスマートフォンと評価したい。
スマートフォンのコンテンツのリッチ化、市場の自由化によってさまざまなニーズが見える今の日本市場。その中にはコストパフォーマンスに優れる高性能な機種があってもいいことだろう。筆者もさらなる市場の活性化を期待したい。