ファーウェイは、中国向けに展開している同社のスマートフォンに採用されるHarmonyOSの最新版に当たる「HarmonyOS NEXT」のオープンベータを一部機種向けに公開した。
HarmonyOS NEXTではAndroid向けアプリとの互換性を切り捨てた完全独自設計のOSであり、あらゆるアプリもゼロからの登場だ。ファーウェイは、このOSに独自カーネルを採用したことで高度な最適化が行えるとした。これによってパフォーマンス効率を最大30%向上、消費電力を20%低減できるとした。
OSアップデートは簡単。元のバージョンにも戻せる
今回筆者は手元にあったMate 60 ProにHarmonyOS NEXTを試してみることにした。こちらの申請には中国大陸向けのファーウェイアカウントが必要になる。
申請は比較的簡単に行える。申し込んだところ申し込みが多数あったため、筆者のもとにアップデートが届いたのは申し込みから1週間程度かかった。
オープンベータ版は0.0.71だ
アップデートを行おうとすると、やたらとバックアップを求められる。本OSは開発中のベータ版OSのため、気に入らない場合は旧バージョンのHarmonyOSに戻すことができる。そのためのバックアップというわけだ。
バックアップが幾度か求められる
加えて、クラウドストレージの有料プランに加入してない方でも、30日の期間限定で200GBの容量が付与される。それだけバックアップが大切という意味になるが、言い換えればクラウドストレージを提供してでも、この最新OSを体験してほしいというファーウェイの気概も感じられる。
バックアップ用のクラウドストレージの容量も30日限定で200GBが提供される。
ちなみに、端末本体にGoogleモバイルサービスが入っている場合は、HarmonyOS NEXTへアップデートができないため削除することが必要だ。
ベータ版のHarmonyOS NEXTに触れる。課題はアプリのラインナップか
今回試したオープンベータ版は意外にも致命的な不具合などはほとんどないように感じた。実際にモバイル通信、Wi-Fi、Bluetoothともに全て正常に利用できることを確認し、GPSも問題なく動作した。とりあえずスマートフォンとして使う最低限のラインはクリアしているようだ。
筆者としては思った以上に使えると言う認識だった。目に見えてわかるものは、なめらかなアニメーションと電池持ちの良さだ。
特にアプリ間の変遷やホーム画面の挙動といったアニメーションについては、かなり洗練されており、過去に触ったスマートフォンの中でもトップレベルだ。特にファーウェイのスマートフォンは極めて性能が高いスマートフォンと言うわけでもないため、高度な最適化がされていると考える。
加えて、従来よりも体感的に明らかに電池持ちが良くなっており、この辺りは独自OSの恩恵を受けられる。以前は入れられたGoogleモバイルサービスが抜け道含めて全て塞がれているため、これらのバックグラウンド処理がない事は留意してほしい。
HarmonyOS NEXTでは従来のAndroid向けのアプリは動かなくなる。このため、アプリの少なさは致し方ないところがある。
とは言え、このような新規プラットフォームのOSでありながら、既に1万5000を超えるアプリが開発されている。ある程度必要なアプリが揃っていることに驚く。
SNSなら微博や小紅書、TikTokがある。EC通販は京東や淘宝、閑魚、動画サイトではbilibili動画がネイティブアプリを展開している。
ゲームも少数ながらいくつかHarmonyOS NEXT向けに出ている。中国では著名な王者栄耀をはじめ幻塔などのアプリも出ている。
日常使いのアプリはもちろん、ゲームなども少しずつだが揃い始めている
エンタメ系のアプリも中国向けのものは揃い始めている
一方で中国内でもこのスマホがまだ「使える段階に至らない」と評価されている。この理由は、国民の9割が利用してると言われるWeChat(微信)がまだ招待制のベータ版であることが理由だ。日本で言えばLINEとモバイルSuica非対応と思ってもらえばよい。
決済サービスはAliPayや各種銀行のバーチャルカードが利用できるが、利用頻度の多いWeChat Payが利用できないのは大きな課題だ。
唯一惜しいと感じる点は日本語のキーボード入力ができなかったことだ。HarmonyOS 4.2までの同社の標準キーボードアプリではできたので、ここで使えなくなるとは…と思った次第だ。
一方、日本語の音声入力はできたりするので、この辺は正式版になるころには対応言語が増えるのではないかと考える。
どうしても日本語をキーボードで入力したい場合、現時点では不完全ながら「微信輸入法」というキーボードアプリを使えばひらがなとカタカナが入力できる。
この方法の場合、ひらがなとカタカナはあくまで「記号」の扱いのため、漢字への変換等はできない。音声入力の補助として使うのが良さそうだ。
日本語は一部入力が可能だ
言語に日本語はない
ここはベータ版ということもあり、まだまだマルチランゲージの最適化などが行われていないものと考える。
HarmonyOS NEXTへのアップデートはオススメしないが、可能性を感じた魅力的なOS
このOSについては、日本で使えるかと言うよりは、日本でアップデートできる人の方が限られるOSだ。正直、日本人が今の環境で満足に使いこなす事は不可能だと思ってもらってよい。
仮にも利用するコンテンツがウェブブラウザで完結するにしても、日本語入力できない点が割と致命的だ。音声入力を駆使すれば利用できないことはないが、素直に英語か中国語で利用したほうがよさそうだ。
もちろん、アプリの9割が中国向けであり、今後のアップデートを踏まえてもFacebookやInstagram、Xといったアプリが追加される事はないと考えて良い。そこら辺はブラウザを使って利用すると良さそうだ。
Xはブラウザから問題なく使えた
ファーウェイは発表会にて、このOSにアップデートするとで従来(Androidベース)よりも30%高速でアプリを動かせるようになり、メモリ使用量も平均1.5GB削減される。また、バッテリー持ちも従来より平均56分増加するとした。
特に性能の3割向上とバッテリーの約1時間増は7nmプロセスから3nmプロセスに移行したのとほぼ同じ効果だという。
現状のファーウェイがハイエンドスマホに採用するチップセットはSMICが製造する数世代前のものだ。性能面で優位に立てなくても、OSレベルの高度な最適化によって競合他社に優位に立つという目論見を感じ取れる。OSアップデートも独自OSに移行するので、Android OSという外的要因も無くなる。機能改善を含めたより長期のOSアップデートが可能になると考える。
自社の端末向けに高度に最適化された独自OS、独自チップセットを採用するスマートフォン。これもうiPhoneとほぼ同義のスマートフォンということになる。
最後になるが、このHarmonyOSはファーウェイの大きな挑戦。世界に「第3のモバイルOS」と呼べるものが再び登場する布石になると評価したい。その理由の発端は米国の制裁という部分もあるが、ある意味この制裁がファーウェイの技術投資を加速させ、独自のプラットフォームを構築するまでに至った。
まずは中国国内という世界的に見ても尖った市場で始めることになるが、ベータ版への申し込み申請の多さやアプリの数の増え方は今まで見てきた「第3のモバイルOS」にはない盛り上がり方だ。現地では純血鸿蒙(Androidベースではない本物のHarmonyOS)と呼ばれるこのOSへの関心の高さは驚かされるものがある。
今後複数年をかけて、このOSはグローバル向けの端末にも普及していくことになると考えられる。これから3〜4年はまだまだアプリの数を増やす準備期間だ。
さて、Huaweiは10月23日にHarmonyOS NEXTの正式バージョン「HarmonyOS NEXT 5」を堂々発表した。このアップデートは特定の端末かつ希望者から順次配信されるとし、正式なアップデートとしての公開は来年の1月以降とした。
対応端末はHuawei Mate 60シリーズ、Mate X5、Pocket 2、Pura70シリーズのほか、MatePad Pro 13.2とMatePad Pro 11(2024)に配信予定だ。スマートウォッチではHuawei Watch Ultimateが対応する。また、ベータ版としてはnova 12 Ultra向けが公開されている。
HarmonyOS NEXTの正式バージョンはHarmony OS NEXT 5という表記になった
今後出てくる同社のスマートフォンやタブレット端末はすべてHarmonyOS NEXTになる予定だ。これは既存のAndroidアプリという資産を全て切り捨て、独自のプラットフォームでアプリ環境を再構築していく途方もない道筋だ。
ある意味大きな賭けと呼べる状態だが、ファーウェイは今後の可能性も含めここにかけた。今後の動向も追って行きたい。