12月26日より新たな値引き規制のルールが適用され、多くのスマホが実質的に値上げとなる今回の改正。今回は中でも下取り価格の抑制と、このルール変更で「悲願」を達成したものをまとめたい。
- スマホの値引き規制変更。今度はキャリアの下取りや残価設定にメス、端末は実質値上げへ
- キャリアの下取り規制は業界団体「リユースモバイル・ジャパン」としては悲願のできごと
- 中古販売店には悲願かもしれないが、結局のところ消費者にとってプラスの要素はなし
スマホの値引き規制変更。今度はキャリアの下取りや残価設定にメス、端末は実質値上げへ
今回のルール変更では、スマートフォンの下取りに規制が入った。これは大手キャリアで行われている「1年後返却で実質36円」などの料金体系になるが、これが規制された。
この1年で実質24円といった返却型プランは、税込4万4000円上限の通信料金値引き+返却時の残価(買取価格)を上乗せして「1年間は実質24円」としている。これであれば2022年末の上限2万2000円の値引き規制(2023年に最大4万4000円に緩和)に対応しつつ、消費者にスマートフォンを安く提供できている。
高価なiPhoneもこの方法で安価に利用できる
Google Pixelは規制後も安価に利用できる機種として人気だ
一方で、このやり口を総務省はヨシとしなかった。その理由として、資本力のある大手キャリアが、買取相場以上の高額な金額で端末の買取をしているのではないかという指摘だ。
昨今主流の返却型プランにおける、一定期間端末を利用した後に返却した場合の支払い免除金額。いわゆる「残価」が実質的な下取り価格になっている。この部分が「中古買取相場よりも高価」と指摘されていた。
総務省はスマートフォンの買取価格の基準として、中古携帯電話の販売事業者で構成される社団法人リユースモバイル・ジャパン(RMJ)の買取平均価格を参照する(残価率の算出も含む)ように改正した。
ここでiPhone 15 128GBを例にして見てみよう。イオシスとじゃんぱらはランクA品、ブックオフは中古買取最高金額、フリマサイトは「状態が良い」ものの価格帯を示す。
リユースモバイルジャパン(RMJ)平均額:8万0114円(2024年6月)基準額
イオシス:8万1000円(RMJ加盟)
ブックオフ:6万円(RMJ加盟)
じゃんぱら:8万2000円(RMJ非加盟)
フリマサイト:9万〜9万5000円前後
ソフトバンク:12万0924円(1年後返却時の支払い免除額)旧価格
こう並べて見ると、キャリアの残価設定が一般的な中古買取価格よりも高いことは明らかだ。この高すぎるキャリアの残価という下取り金額を「一般的な中古買取相場並みに抑えろ」という内容が今回の規制ルールの変更だ。
今回のiPhoneをキャリアの残価から単純計算でRMJの基準額まで落とすとなれば、4万円ほどの差額となる。これは実質的に4万円の値上げという形で消費者に帰ってくることになる。
これがあってかソフトバンクでは、有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」内でこの規制に対し、リユースモバイル・ジャパンの価格は市場平均と言えず、スマートフォンの中古取引の約30%を担うフリマアプリ、ネットオークションの取引価格も入れて考慮すべきだと意見している。
キャリアの下取り規制は業界団体「リユースモバイル・ジャパン」としては悲願のできごと
今回の規制は「キャリアの下取り(買取)価格が高すぎる」ものに応えた形だが、この変更は業界団体のリユースモバイル・ジャパンとしては設立以来の悲願達成と評価できる。
そもそもリユースモバイル・ジャパンとは何なのか。本業界団体は行政(総務省)への情報発信、一般ユーザーへの認知拡大、赤ロムや端末のデータ消去方法といった共通課題への対応を目的に、2017年に大手のゲオやブックオフなど携帯電話の中古買取、販売を行う8社が発起人となって発足。
設立には総務省も後押しした。総務省としては中古市場に対して公平性を保てる団体として、買取店としては総務省やキャリアと意見交換、是正働きかけが直接できる団体としてWin-Winの関係だ。
現在も総務省がオブザーバーとして名を連ねており、 値引き規制などを検討する有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」にもリユースモバイル・ジャパンの関係者が出席している。
本団体は2020年に一般社団法人に改組している。画像:リユースモバイル・ジャパンより
少し脱線してしまったが、さかのぼるとリユースモバイル・ジャパンの粟津理事長(当時)は「キャリアの下取り価格が高すぎる」点を2017年の設立時会見で疑問視。この際に、キャリアのiPhoneの下取り価格と中古買取価格の平均値の差に対し以下に示した。以下引用する
キャリアの下取りと中古店の買取価格に対し
「なぜこれだけのギャップ(価格差)があるのか、非常に疑問を感じている。われわれの販売金額相当がキャリアの下取り価格になっている。(関係省庁やキャリアと)意見交換を行っていきたい」
リユースモバイル・ジャパンは設立時から、キャリアの下取り価格が中古価格よりも高価であることを疑問視しており、キャリアと意見交換したり、総務省に対し是正を行うよう働きかけていた。今回、この働きかけが7年の採月をかけて、実を結んだことになる。
もっとも、リユースモバイル・ジャパンとしては、キャリアの高額な下取りは抑え込みたかったと考える。
この理由として、まずキャリアの下取りと中古買取店は「スマートフォンの買取」という点で実質的なライバル関係にある。買取店サイドとしては、キャリアが市場価格を無視した高額な下取り金額を提示していることは「邪魔」以外の何物でもないのだ。
加えて、キャリアに端末を多く下取りされてしまうと、買取店には端末が回って来なくなる。結果として、自分たちの市場で販売する端末が無くなってしまう構図になる。
今後、返却系の施策が恒常化してくるとなれば、多くの端末はキャリアに返却されてしまう。この結果、買取店に持ち込まれる端末が減少し、2016年ごろに指摘された「売るものがない」という状況に再び陥ることになる。
そのため、買取店サイドとしては、キャリアの高額な下取りを「中古市場の是正」という名目でなんとしても抑え込みたかったと考える。リユースモバイル・ジャパンはあくまで営利企業が集まった企業からなる一般社団法人。むしろ自分たちが不利にならないよう法改正を働きかけたとみるべきだ。
中古販売店には悲願かもしれないが、結局のところ消費者にとってプラスの要素はなし
最後になるが、総務省は中古スマートフォンを適切な市場で流通させることで、中古市場の活性化を目論んでいる。筆者はキャリアが回収した端末を認定中古として再度提供し、品質の良い中古スマートフォンを安価に購入できる機会が増えるのではないかと考えていた。
キャリアの認定中古スマートフォンは厳しい検品によって品質が良いことに加え、契約時の割引、保証が使える付加価値を提供している。一部機種は実店舗で販売しており、総務省の示す中古市場の活性化にキャリアの「認定中古スマホ」は大きな起爆剤になると思ったのだが、現実はそういかなかった。
実態はキャリアの高額な下取り、認定中古をヨシと思わない中古買取業者たちが結託し、総務省を味方につけて「邪魔者を追い払った」状態。キャリアの認定中古といった新しい販売方法も、高価な下取りによるキャリアへの端末の流れを抑えることで、長期的な視点でキャリアへの流通量を減らしたいという目論見を感じられる。
キャリアも認定中古品で中古スマホ市場に参入した。画像はdocomo Certifiedという認定中古スマホの概要
もちろん、資本力のあるキャリアだからこそ、買取基準額に数万円単位で上乗せできることは理解できる。それを資本力のない会社は身を切れないから「大手はずるい」として規制を求めることも、資本主義の考え方としてはおかしな話だ。
過去には買取店各社も「キャリアの下取りよりもお得」と題した買取キャンペーンを行っていた時期があった。それを知ってる身からすると「自分たちが不利になったから法律で規制しろ」と騒いでいるように思えてしまう。
これらの変化を消費者に当てはめると、プラスの要素はないように感じる。スマホは実質値上げするものの、中古買取店の販売価格が下がるわけでもない。今回のルール変更が長期的に見て吉と出るか、凶と出るかはわからない。キャリアも今回の変更を受けて次の手をこしらえていることだろう。
少なからず、Androidスマートフォンにとっては残価設定の観点からマイナスの要素が強く出るのではないかと筆者は考えている。そのような意味では、後々に本変更が「愚策」と評価されないことを祈るばかりだ。
中古価格の下落が大きいAndroidスマホは厳しくなると考える
次回は規制のルール変更により端末がどの程度値上げとなるのかまとめていきたい。