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中国スマートフォン大手「OPPO」が半導体事業から撤退。なぜ、独自の半導体事業が必要だったのか改めて考えてみる

 中国の大手スマホメーカー OPPO は傘下の半導体開発事業を行う「ZEKU」を解散することを表明した。

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 これによって、同社が開発していた独自プロセッサーについても開発を終了した。解散理由については、世界的なスマートフォン市場の凋落による収益性の悪化により、開発費のかかる同事業を維持することが難しいことを理由にしている。

 

 ZEKUのCEOの劉君氏はこの解散報告について、何度も言葉を詰まらせながら「申し訳ない」と断腸の思いを述べている。

 

 

OPPOが開発していた自社開発プロセッサーとは何なのか


 OPPO は自社のスマートフォンを市場における差別化として、SoC と言われるプロセッサーと組み合わせて動作する「サブプロセッサー」を自社の製品向けに開発、搭載していた。


 有名なものが「MariSilicon X」と呼ばれる画像、映像処理専門の統合型プロセッサーだ。こちらはNPU(AI処理用のプロセッサ)、ISP(画像処理用プロセッサ)、メモリアーキテクチャで構成されている。

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高い性能を持つMariSilicon X

 

 このプロセッサーは高いAI性能を示し、最大で18TOPSの演算性能を持つ。参考までにiPhone 14に採用されるApple A15は15.8TOPSなので、これよりも高性能としている。それでいて低消費電力な点を売りとしている。

 

 この演算性能を生かし、動画撮影時に夜景モードを適用したり、より幅の広いダイナミックレンジを処理することが可能となった。また、このプロセッサはTSMC 6nmの製造ラインで製造されており、いち企業のサブプロセッサとしてはかなり手の込んだものとなっている。かなりの高コストとなっていることは容易に想像がつく。

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自社プロセッサ採用のスマートフォンには"POWERD BY MariSilicon"の文字が入る

 

 また、TWSイヤホン向けのBluetooth統合型プロセッサとして、独自のコーデックで24bit/192kHzの転送、デコードに対応する「MariSilicon Y」を開発している。スマホ向けのみならず、多様な方面の半導体設計、製造に力を入れていた。

 
独自プロセッサを必要とする理由。他社との差別化と、プロセッサの性能差の穴埋め

 

 

 スマートフォン向けの「サブプロセッサー」の存在意義として考えられるものが、他社との体験の差別化だ。近年では、どこのメーカーのスマートフォンも大手メーカーのプロセッサを採用し、性能もできることも似た通ったかとなった。

 

 このため、体験の差別化として様々なメーカーが多くのアイデアを展開した。これは王道から奇抜なものまで多岐にわたるものだった。その中でOPPOが出した答えは「自社のカスタムチップを搭載し、これによる高い処理性能で成せるユーザー体験」で差別化を図るものだった。

 

 そして、もう一つの理由が「異なるプロセッサーにおける性能差を小さくする」ことと考えられる。体験の差別化はさておき、なぜこのような事が必要なのか改めて考えてみる。

 

 OPPOではハイエンド端末において、クアルコムのSnapdragonとMediaTekのDimensityを採用している。パソコンに例えばインテル CoreプロセッサーとAMD Ryzenのような関係だ。今年のフラグシップであるFind X6では、Snapdragon 8 Gen 2またはDimensity 9200を採用。どちらも2023年投入らしく、高い性能を兼ね備えたスマートフォン向けプロセッサだ。

 

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今年発売のFind X6シリーズでは、上位のFind X6 ProはSnapdragon 8 Gen 2に対し、標準モデルのFind X6はDimensity 9200とプロセッサは異なる


 

 ただ、MediaTekのプロセッサはカメラを含めた画像処理が、例年同世代のSnapdragonより劣るものとなる。画像処理関連はクアルコムが特許を保有していたり、パーツベンダーと最適化を図ったからこそ成せるものもある。また、使用できるカメラの構成や挙動にも差がある。そのため、仮に同じハードウェアで構成しても、前者は後者と比較して撮影体験で劣ることが多いのだ。
 

 このため、プロセッサの画像処理性能の差を埋める存在として、MariSilicon Xという独自プロセッサが必要になったのだ。事実、このサブプロセッサはMediaTekのプロセッサでも高い画像処理能力を発揮し、基礎性能向上に寄与している。

 

 現に競合のvivoでも、一部機種には独自プロセッサー「V1/V2」が採用されている。これの主目的は、他社との差別化や性能向上はもとより、同じシリーズ内で採用されるSnapdragon機とDimensity機の差を埋めるものという認識が適切だ。   

同じハイエンドに2つのプロセッサメーカー「中国メーカー」ならではの事情


 さて、スマホメーカーがこのように2つの異なるプロセッサをフラグシップで揃える理由は何だろうか。もちろん、競走させることで優位な条件を引き出してコストを抑えたり、供給数や細かい仕様の最適化について柔軟に対応してもらう考えもある。


 もうひとつ考えられるものが、中国メーカーという出自による米国等の制裁によるリスク分散という側面だ。これはOPPOに限らず、グローバル展開を行う中国スマホメーカーに共通するものだ。

 

 今後、ファーウェイなどに対し行われてる米国の制裁が、他の中国メーカーにも波及する可能性はゼロではない。その際にクアルコムのプロセッサを使用できなくなる、何らかの制限がかかったとしても、MediaTekのプロセッサで製品を出して繋ぐことはできる。そのような保険的意味合いから中国メーカーでは「両社のSoCを採用せざるを得ない」といった見方もできる。

 

 仮にも、制裁で供給が制限される可能性が高いものは米国クアルコムの製品だ。それが絶たれても、ユーザー体験を損なわないまま商品を展開するためには、MediaTekとの強い関係が必須となるのだ。

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MediaTekのハイエンドプロセッサは多くのメーカーで採用されるが、Xiaomi、OPPO、vivo、HONORなどの中国メーカーが中心となっている。

 

本当に「収益性の悪化」だけが半導体事業終了の理由なのか

 

 さて、OPPOが独自プロセッサの開発を終了する理由は開発費を回収できない「収益性の悪化」としている。確かに独自プロセッサは「ただ出して終わり」とはいかない。継続的な性能強化が必要となるため、常に研究開発費が大きくのしかかる。搭載するSoCは年々進化するのに対し、発表から基本性能がアップグレードされていないことは厳しいのだ。

 

 特にMariSilicon Xは発表時の性能では魅力的だったが、時間の経過で優位性は薄れている。状況によっては、来年には賞味期限切れのスペックになりかねないところまで来たのだ。これに対して、競合のvivoはV1→V1+→V2と継続して性能をアップデートしてきた。この継続的なアップデートが、サブプロセッサにおいても大切と言えるのだ。

 

 

 そして、開発の元となるスマートフォンの売り上げについては、地域によっては厳しい状況も続いている。ヨーロッパでは特許紛争の結果、ドイツから撤退したことに続いて、フランスからの撤退と報道も出ている。日本でも年々発売機種が少なくなり、今ではReno Aシリーズの一本軸になるなど、厳しい様子をうかがわせている。

 

 その一方で、中国ではハイエンドのFind シリーズが好調なことで出荷台数を伸ばし、2023年Q1では19.6%のシェアを獲得して同国向けでは首位となっている。東南アジアやインドでも微増ながらシェアを伸ばすなど好調だ。


 ただ、グローバル規模で見ると出荷台数は前年比較で2桁クラスの大幅減となっている。端末の販売による利益も減少しており、コストのかかる半導体の開発事業を維持するのが難しくなった点は間違いない。

 

 ただ、これと別に「米国が圧力をかけたのでは」という意見もある。この意見ついても全否定はできない。OPPOは当初この半導体事業の最終目標を「自社製のSoCを開発する」としていたので、強い圧力がかかったというものだ。自社SoCのイメージとしては「Google Tensor」や「HiSilicon Kirin」に近いものだ。

 

 この自社製SoCは米国が恐れるもので、軍事転用への懸念、既得権益的な理由から東側諸国に「自由度や汎用性の高い先端半導体を作らせたくない」という意図がファーウェイの制裁からも透けて見える。既にTSMC 6nmのラインを確保し、最終的にSoCを作ると目標に掲げたメーカーに対し、黙っていなかったと評価はできる。中国本土で製造するとなれば、半導体製造機器の輸出規制も絡んでくる。

 

 仮にも自社SoCの開発、供給に成功した場合、開発元が傘下の子会社とはいえ、OPPOがファーウェイのように米国の制裁を受けることは容易に想像できる。

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最新機種でも、制裁によって各種パーツの使用に制約のあるファーウェイのスマートフォン。製品展開にも大きな打撃となっている

 

 ファーウェイへの制裁も基地局事業とあわせ傘下のHiSiliconによる「高度な半導体事業」を持っていたことが、今に至る「強い制裁」へとつながっている。ちなみにvivoは自社プロセッサの「V1」発表時に、同チップを「スマートフォンの強化に使うサブプロセッサ」と位置づけ、SoCまで発展させることはないという見解を示している。

 

MariSilicon X搭載のスマホの強み。消費者に知らしめることができず

 

「独自プロセッサのMariSilicon X搭載スマホに、どのような強みがあるのか。」

 

 このような質問が来た時、筆者は「夜景モードがサクサク撮れる」と答えていた。実際に筆者が搭載機を使用して体感できた差は以下の通りとなる。

 

・夜景モードの処理時間が短い

・夜間の動画撮影時に電池を多く消費しない

・TikTok等のアプリ内カメラでもある程度HDR補正が効く

 

 最後のものは標準カメラアプリ以外でも利用できるもので、ハードウェアアクセラレーターを搭載しているからこその強みだ。ただ、正直な感想は売り文句の割に「これだけ?」とも言える内容だ。搭載したスマートフォンで「何ができるのか?」という点があまり明記されなかったこともあり、消費者にこのプロセッサの凄さを伝えることができていなかった。

 

 そして、この自社プロセッサにて得られる体験は日数を重ねるごとに「OPPO独自で他のスマホでは体感できないもの」とは言い切れなくなっていたのだ。それだけSnapdragonをはじめとした大手メーカーが開発するSoCの進化も大きいものだった。

 

 この「押しの弱さ」も商品展開と合わせて少なからず影響した可能性はある。ユーザーはプロセッサでスマホを選ぶかもしれないが、自社プロセッサの有無では振り向かなかったのだ。むしろ地域によっては安価で高性能なOnePlusが好調だったりと、製品展開も難しい局面になっていたと考えられる。

 

 筆者はこのプロセッサが搭載されたスマートフォンを過去に2機種使ってきたが、「MariSilicon X搭載だからできる機能」のためだけに乗り換えたいと思えるものはひとつしかなかった。それは、MariSilicon X向けに最適化されたハードウェア、前作より大幅強化されはカメラを持つ「Find X6 Pro」だ。

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MariSilicon Xに加え、高いハードウェア性能を備えたFind X6 Pro

 

 最後になるが、スマートフォンにおける自社プロセッサによる機能拡張は、これからの業界トレンドになると確信していた分野だ。そもそもOPPOの半導体事業と聞いてピンとこないのもその通りで、日本では独自プロセッサ採用のハイエンド機が1台も出ていないため、関心が薄いのだ。今回の一連の報道で知ったという方も少なくないだろう。

 

 しかし、今回の一件が収益の悪化による撤退だけでなく、米国の制裁も絡む政治的要素が強い場合は、今後のスマートフォンのイノベーションにブレーキがかかるかもしれない。同じようなサブプロセッサはvivoやXiaomiも採用している。特にかつてSurge S1という自社開発SoCを世に放った経歴を持つXiaomiは、動向次第ではあらぬ嫌疑をかけられる可能性もある。この辺りは、今後の動向も注視していきたい。

 

www.hayaponlog.site

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