本日、 MM総研は2022年度のスマートフォンの出荷台数を調査した結果を公表した。本記事はその中のSIMフリー(オープンマーケット)と言われる市場の部分を、少し掘り下げてみようと思う。
- SIMフリースマートフォンの市場は全体の8%と依然として小さなマーケット
- 日本で「ハイエンドのSIMフリースマホ」を売るのはかなり難しい
- キャリアと組んで売らなければ、日本市場で存在感を示すことは難しい
SIMフリースマートフォンの市場は全体の8%と依然として小さなマーケット
スマートフォンの出荷台数はその年の需要を追う上でもチェックしておきたいものだが、その中でも興味深いものがSIMフリー(以下オープンマーケット)のスマートフォンの内訳だ。
まず割合ベースで見ると、オープンマーケットのスマートフォンの出荷台数は237.4万台となり、これは昨年度出荷されたスマートフォン(2985.1万台)の約8%に過ぎない。
言い換えれば、このセグメントは日本の携帯電話市場において10% にも満たないとても小さなものなのだ
内訳のグラフを見ていく。実に57.8%がApple iPhone(137.2万台)となり、残りを各メーカーが8〜7%のシェアで拮抗している状態だ。これが意味するものは、多くのメーカーで20万台の出荷台数にすら届かないところだ。
実際2位につける8.1%のシャープ(19.3万台)の下には、7.8%のXiaomi(18.6万台)、7.7%のOPPO(18.2万台)、7.0%のモトローラ(16.5万台)と続く。海外メーカーとしては存在感を示すが、実際の売り上げではかなり厳しいものだと推測される。
グラフ詳細については権利の関係で弊誌では掲載できないため、こちらの記事を参考にしてほしい。
ちなみにオープンマーケットでは iPhone を除くと、ほとんどが5万円以下の廉価なスマートフォンとなっている。上位に入ったメーカーが展開している機種を考えると納得がいく。
シャープの場合、オープンマーケットではハイエンド機はほぼ展開しておらず、この数字は実質的にAQUOS sense などのスマートフォンで稼いだものとなる。
Xiaomiもオープンマーケットでは、Redmi Note 11やとRedmi Note 10Tといった安価な端末の売れ行きが主体となる。ハイエンドのXiaomi 12T Proは2万台売れたか否かという状況と考える。(同セグメントのXiaomi端末の10%強)
OPPO についても現在はハイエンド機を展開していないため、実質的にReno7 Aなどのスマートフォンで稼いだものといえる。
モトローラはedge 30 Proというハイエンドスマートフォンを展開していたものの、稼ぎ頭となったのは5万円以下のスマートフォンだ。
日本で「ハイエンドのSIMフリースマホ」を売るのはかなり難しい
このような状況になると、日本の「オープンマーケット」と呼ばれるとても狭い市場で、高価なハイエンド端末を販売して利益を得ることはかなり難しいものになる。
あの数字の中でもiPhoneを除いた残りのスマートフォンのうち、ハイエンド端末の割合は多くて10% といったところだ。これのほとんどを、「Zenfone」や「ROG Phone」が強いASUS、あとは直販モデルの「Google Pixel」が持っていると考えられる。
事実、ハイエンドしか展開していないASUSはZenfone 9や8が好調とはいえど、この上位5社にすらランクインできていない。そのため出荷台数では16万台以下となる。
キャリアに供給される機種よりも桁ひとつ少ない出荷台数の中で、Zenfone 9はFeliCa搭載をはじめとした国内向けのフルカスタムを行った商品だ。
その上で10万円以下の価格設定としており、相当のコストを切り詰めた本気の商品だったことが理解できるはずだ。
そう考えるとASUSってかなりすごいなと思ってしまう
これを踏まえると、ソニーストア版のXperiaも年間10万台出荷されたか否かではかなり怪しい。単独なら間違いなく赤字ラインだが、これはグローバル展開や国内キャリア向けのリソースがあるからこそ為せるものだ。
噂されるサムスンのGalaxyハイエンド機の投入も、同じ理由となるはずだ。グローバルやキャリア向けのリソースがなければ、商業的にもかなり厳しいものとなるはずだ。
データから推察しても、ハイエンド端末はせいぜい1〜2万台程度売れるかが関の山と言える状態だ。商業的にはかなり厳しい…というか、利益がほとんど出ない慈善事業に近いものとなる。逆にASUSが執念深いというか、伊達にこの日本のオープンマーケット市場で長年スマートフォンを投入しているからこその執念を感じる。
キャリアと組んで売らなければ、日本市場で存在感を示すことは難しい
日本市場では、キャリアにてスマートフォンを販売することが生き残る上では重要になってくる。何よりもオープンマーケットでは届かない92%のお客さんにも、しっかりと届けることができるのだ。
事実、オープンマーケットではスマートフォンを展開していないFCNT(富士通)が、240万台も出荷しているのだ。これはオープンマーケットで出荷されたスマートフォンの総数(237.4万台)よりも多いのだ。
arrows Weは3キャリアで販売され、昨年度の同社の売り上げの主軸になったスマートフォンだ
そのため、当初はオープンマーケットを主軸としたXiaomiやOPPOも、FeliCa搭載などのローカライズを行い、今ではauやソフトバンク向けにスマートフォンを供給している。こうしなければ生き残れないのもまた事実なのだ。
Xiaomiがハイエンド端末のXiaomi 12T ProにFeliCaを載せて販売できたことも、供給先であるソフトバンクが大きく絡んでいると見るべきだろう。
XiaomiやOPPOについては、日本未発売のハイエンド端末を展開してほしいという要望はいくつか見かける。
また、VIVOやrealmeといった日本未参入のハイエンドスマートフォンを求めるマニアの声はあるが、昨今のグラフから推察すると、日本に投入しても1万台売れるかどうかの世界だ。商業的に見た場合はとても成功とは言えないものだ。
これに日本語への対応、各種サポート体制の構築、技適をはじめとした各種認証手続きといったコストものしかかる。このため、端末価格も必然的に高価となる。
新規のスマートフォンメーカーが高コストなハイエンド端末をいきなり投入できる余地がほぼないと言ってもいい。価格勝負できる機種でも、ローカライズで高価になってしまえば、その利点は失われてしまう。
日本未発売の魅力的なスマートフォンをSIMフリーで販売してほしいとの声は多いが、なかなかうまくはいかない。
また、日本は店頭販売が主軸の市場だ。オンライン限定で販売したXiaomiのPOCO F4 GTは、高いスペックを備えながら7万円台と安価なことで、高コスパな機種として注目を集めた。
ただ、オンライン専売はコストを抑えられても、消費者が手に取れる機会がほとんどなく未知の商品といった印象を与えた。
店頭販売されない関係で、サードパーティのアクセサリーもほとんど出なかった。
売れ行きが良くなかったのか、公式ストアでは何度もセールで販売されるなど、あまり成功とは言えない商品だった。
奇抜なデザインと高いスペックが特徴のスマートフォンだった
一部のファンやスマホオタクには絶大な支持を受ける「ハイエンドのSIMフリースマートフォン」だが、そう簡単に日本に投入するのは難しいものだ。
筆者もどちらかといえば、多くのメーカーに日本でも参入してほしいと思うところだが、現実はそうもうまくいかないようだ。