SIM単独割引。回線と端末が分離した昨今の市場において、SIMカードのみを契約した場合、上限2万円までの利益供与(キャッシュバックやポイント付与など)が行われるものだ。
このようなキャッシュバック等も時に2万円を超える「違法な利益供与」が行われていたが、その中には現行の法律の抜け道を使った「グレー」なものもあった。今回、このような事象に対して総務省としても適切に対応する方針となったようだ。
代理店が独自に2万円以上の利益付与した場合は行政指導の対象外。法の抜け道が浮き彫りに
法の抜け道を突いた利益供与の事象に際し、総務省の電気通信事業法の法改正並びに見直しを行うWGにて、この問題点が大きく示された形となった。頒布された資料には以下のように記載されている。
SIMのみ新規契約について、一部の事業者等から、販売代理店において、SIMのみの新規契約に伴う規制の潜脱となるようなキャッシュバックが行われている旨の報告があった。
現行制度上、SIMのみ新規契約に伴うものであっても、事業者が行う利用者への利益の提供額と事業者から販売代理店への奨励金の額の合計が利益の提供額の上限(2万円)を超えるものは、事業法第27条の3の潜脱行為として、業務改善命令(事業法第29条第1項第12号)の対象となり得るとされているが、同号に係る規定は電気通信事業者を対象としており、販売代理店が独自に利用者への利益の提供を行う場合は、販売代理店を当該規定に基づく業務改善命令の対象とできない。
事業法第27条の3の潜脱行為は、主体によって潜脱の有無が変化するものではない。したがって、潜脱行為となる行為は等しく規律されるべきではあるものの、これまで当該利益の提供に関する扱いがガイドライン上明確になっていなかった。
今般、販売代理店が当該利益の提供を行う場合においてもその扱いを明確にする必要が生じたことを踏まえ、販売代理店による事業法第27条の3の潜脱行為が行われないよう、これを防止するための実効的な措置を事業者が講ずることも事業法第27条の4の販売代理店に対する指導監督義務に含まれることについて、ガイドラインにおいて明確化することが適当ではないか。
お役所らしく分かりにくい言葉が並べられている。これを要約すると以下のような形となる。
・事業者から一部の販売代理店が「違法な利益供与」を行っているのではないかと総務省に報告があった。
・SIM契約による利益の供与は上限2万円であり、それ以上の供与を行った場合は「潜脱行為」となり業務改善命令(行政指導)の対象となる。
・代理店が独自に2万円を超える利益供与を行った場合も「潜脱行為」に該当するが、現行法での行政指導対象は電気通信事業者(MNO/MVNO)が対象となり、販売代理店は対象でなかった。
・総務省としても問題視していたが、このような場合を想定したガイドラインが明確でなく、同法内にある「販売店への指導監督業務」にも含まれていなかった。このため、上記の通り指導できなかった
総務省「SIM単体割引で2万円を超える割引があった場合は業務改善命令に該当するが、販売代理店が行った場合はこれに該当しない。このような場合の対応が当初のガイドラインには明記されていなかった」
— はやぽん (@Hayaponlog) 2023年6月1日
(現行法では電気通信事業者のみが対象で、販売代理店は規制の対象外)」
いやマジかよw
まぁ、販売代理店にて行政指導対象相当のことが行われており、総務省でもこれを認知していながら、現行法では「指導対象にできない」理由から実質的に放置していたというものだ。
極端な話、SIM単体契約で「販売代理店が独自に10万円のキャッシュバックをします!」とやったところで潜脱行為になるが、行政指導の対象にはならないというものだ。また、これはスマートフォンの「過度な値引き」とは異なるもので、公正取引委員会などから咎められることがなかった。
ただ、これについてはノルマ等によって契約数欲しさに身を切った代理店が行ったものとなっており、対外的には一見「違法な利益供与」となる。報告者に「事業者など」とあることから「ウチの利益供与ではないので潜脱行為はしていない。代理店が勝手にやった」と行政指導対象にならないように対応した見方もできるのだ。
この結果ついては、完全に総務省側の落ち度である。今後このようなことが行われないように、対象となる利益供与の明確化や、販売店への指導監督業務内にこのような利益供与が行われた際の行政指導等を盛り込む方針としている。
また、SIM単体契約における割引は一部キャリアにおいて「廉価端末に対する特例」を考慮すると、SIM単体契約の利益供与の方が廉価端末より高価になるものが見られる。
これについて、場合によっては潜脱行為に該当する恐れがあるとしており、利益供与の上限を各社で統一する方針を提案している。具体的には、供与できる価格を各社で販売される最も安い携帯電話のうち、最も高価なものを基準にすべきではないかと検討されている。