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なぜ?最近、日本で売られるミッドレンジのスマートフォンのスペックが「停滞」している理由

  進化を続けるスマートフォン。時に魅力的に感じる一方で、5万円以下のラインは「停滞」「衰退」と言った言葉がみられる。

 

 ハイエンド端末は順当に進化を遂げているが、ミッドレンジはどうだろうか。今回は過去に出た機種をメーカー別にチェックしてみた。

 
XperiaもReno Aも。昨年と同等の基本スペックから「停滞」の声も


 今年発表されたスマートフォンを例に挙げて見てみる。以下はXperia 10シリーズとOPPO Reno Aシリーズの搭載プロセッサを示す。

 

ソニー

Xperia 10 III(Snapdragon 690 5G)

Xperia 10 IV(Snapdragon 695 5G)

Xperia 10 V(Snapdragon 695 5G)

 

OPPO

Reno5 A(Snapdragon 765G 5G)

Reno7 A(Snapdragon 695 5G)

Reno9 A(Snapdragon 695 5G)

 

※プロセッサの表記を修正しました。

 

 今年発表されたミッドレンジはソニーもOPPOも基本スペックは停滞という形になった。性能向上が見込めないとなると、付加機能での差別化となるが、プロセッサが同じである以上これも乏しいものとなる。


 Xperia 10 Vはカメラ性能の強化やステレオスピーカー搭載といったハードウェアの進化がある。その一方で、OPPO Reno9 Aに至ってはReno7 Aのメモリを8GBにして外観を変更しただけのモデル(型番は同じ)という、名前を変えただけのマイナーチェンジモデルとなっている。

 

スペック停滞の理由は半導体不足や円安情勢。「キャリアの存在」という日本固有の理由も

 

 さて、このような事が起こる理由は何なのか。大きく分けると「原材料費の高騰」「半導体不足」や「円安」と言ったものが大きく占める。そのほかには日本固有の理由として、「独自仕様による出荷数の少なさ」「検証コストの増大」「キャリアの存在」があると考える。

 

 単純な材料費高騰や半導体不足よる製造原価の高騰。これに加え円安が進んだことによる調達コストの増加もミッドレンジの停滞につながっている。

 Xiaomiで考えれば2年前のXiaomi Mi11 Lite 5G(Mi11青春版)は2299元、今年発売のXiaomi 13 Lite(中国版Civi 2)は2399元と、構成こそ違えど同じラインの製品で100元(約2000円)ほどの値上げ幅としている。

 ただ、当時の為替で計算すると、前者は約3万8000円。後者は約4万6800円とかなりの開きがある。この間で1人民元あたり3円ほどの差があるので仕方ないと考える。

 

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 Mi11 Lite 5GはFeliCaを搭載して日本向けに4万3800円で販売。税金を考慮するとかなり攻めた設定となった。一方で、仮にXiaomi 13 Liteを日本投入しても、現在の為替だと5.5~6万円の設定になると考えられる。


 つまるところ、2年前と同じ価格帯のスマートフォンを仕入れて売ったとしても、為替の関係で日本では約1万円の値上げという形になってしまう。そのような環境でも、Googleのように攻めた価格で投入する例もあるが、多くのメーカーはそうもいかないのだ。

 

 そして、出荷数の少なさは製品コストに大きく影響する。これはXperia に強く言えることだが、廉価モデルのXperia 10 Vは香港版でも3300香港ドル(6万円以上)もする商品だ。単純に出荷数が少なければ各種パーツ調達コストも量産効果における圧縮を見込めず、高価な設定になりがちとなる。

 

 OPPO Reno9 Aも同等のことが言える。この機種は日本向けの独自仕様となるため、中国やグローバル向け仕様と共通化している機種がいないという。このため、グローバルリソースを十分に利用できない難点がある。
 キャリアの存在も大きい。日本市場に関しては「生き残るためにはキャリアに納品しなければならない」と言われるほどのいびつな市場だ。そのため、端末の要求スペックや想定価格もある程度影響を及ぼすものになっている。

 特にXperia は日本における出荷数が全体の8割近くを占めるため、ハードウェア構成には日本キャリアの思惑も少なからず絡む。防水防塵、SDカード対応、本体のコンパクト化などは日本でのニーズが大きいものとなる。

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6インチ 21:9アスペクト比の画面を持つスマートフォンはグローバル市場ではニッチとなる。

 

 OPPO Reno9 Aは「4万円台」という価格設定が必須となった部分もある。直近で展開する2000元クラスのスマホをベースにすると、価格設定を超えてしまう。かといってベース機をワンランク下げると、ユーザー体験を大きく損ねてしまう。


 加えて、KDDI系の販路が今回はないことも出荷台数に影響してくる可能性が高く、Reno Aシリーズ一本足のOPPOはかなりの苦境に立たされている。結果としてReno7 Aを焼き直すことが「最もユーザー体験を損ねず、価格帯の問題もクリアできる最適解だった」という状態だ。

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デザイン的にも「焼き直し」が強いReno9 A

 

 また、日本のキャリアに納品する以上は技適の取得、通信周りの各種検証を行わなければならず、これにも別途コストがかかる。
 XiaomiやOPPOが中国向け等で高パフォーマンスをアピールするDimensityチップセット搭載機を、日本向けで多く販売しない一因となっている。中国メーカーが得意とする2000元スマホも、仮に日本向けに投入したら、各種検証コストや税金を考慮すると6~7万円クラスの価格となる。

 この価格帯では「コストパフォーマンス」をアピールするにも無理があり、キャリアとしても「iPhone SE」「Pixel 7a」と被る価格帯となるため、積極的に扱うところは少なくなる。オープンマーケットでは、最も売り抜くことが難しい価格帯と言われる。マニアが言う「もうワンランク上のプロセッサを積め」ができない理由はこの部分と考える。

 

ミッドレンジのスマートフォンは「制約の中で作るもの」外的要因に影響されやすいことを痛感

 為替、キャリアの存在、各種検証コスト。このような外的要因はなにもミッドレンジだけの話ではない。これは高価なハイエンド機にも同様に影響している。こちらは「値上げ」という形で現れている。

 ただ、こちらについてはスマートフォンに高付加価値を持たせれば、コアユーザーはついてくることもあり、「スペックが下がる、据え置きされる」という形にはならない。

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同じソニーでもXperia 1Vは新機能も多く備え、スペックもしっかりハイエンドだ。その一方で、価格は20万円前後となった。

 

 一方で、ミッドレンジは「予算の上限」が決まっており、ハイエンド機に比べて制約の多い形での設計となる。これでも一般には時代に合わせてスペックは進化するのだが、為替的に不利な地域では「焼き直し」と言われるような機種が出ることは少なくない。

 

 今回、日本向けは為替的にも不利な上、各種検証コストが大きくかかるニッチな市場だ。そのため、各社価格もこなれて検証実績のあるプロセッサを選択。結果としてマイナーチェンジに近い製品が展開されていると考える。


 スペックの停滞はなにも例に挙げた2機種だけではない。シャープの「AQUOS  wish3」はSnapdragon 695からDimensity 700に鞍替えしたものの楽天版は3万5800円とかなり高価な設定になる。他キャリアの価格はまだ公表されていないが、値上げの方面と考えられる。

 

 motoloraもg53jを発売した。価格は3万4800円だが、前作のg52jからスペックを落とした。ただ、この機種の場合はワイモバイル向けにスペックを削ったものが2万1600円で販売されるなど、少々特殊な事情もありそうだ。このほか、Xiaomi Redmi 12CやOPPO A77のような極端に安価な機種を展開したことも、為替の事情が色濃く出ている。


 このため、ミッドレンジスマートフォンのスペックの停滞は、半導体不足などによる原価の増加。ほかにも為替相場、キャリアや各種検証コストの影響が大きく響いている。現在の情勢は廉価なスマートフォンを得意とするメーカーにはかなり不利なものとなり、FCNTや京セラを実質的にスマートフォン事業から撤退に追い込む「とどめ」をさしたものと言って良い。

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ロングセラーだったarrows Weは中国のODMだったとは言え、為替の関係で原価が高騰したものの、価格に変更はなかったことで利益率が下がるものになっていた。

 

 これは国内メーカーに限らず、Xiaomiや OPPOも厳しい形となる。状況が長期にわたる場合は、これらのメーカーが撤退する可能性も否定できないのだ。

 

 海外メーカーが魅力的な価格でスマートフォンを展開できるようになることが先か、物価上昇に合わせて我々の平均所得が上がることが先か。スマートフォンを取り巻く風向きがいい方向に変わってほしいところだ。