スマートフォンのOS アップデートについて、「なぜメーカーが対応しないのだ」という意見をよくいただく。実際のところ、日本では様々な理由からメーカーだけでアップデートを行えるのか決めるのは難しいのが現実だ。今回はこの辺りを考えてみよう。
- スマホの利用期間の長期化と環境配慮の観点から長期化するソフトウェアアップデート
- メーカーよりもキャリアの力が強い日本では、アップデートも積極的に行えない
- 日本でスマホのOSアップデート期間を伸ばすためには、キャリアの売り方を考えなければならなくなる
スマホの利用期間の長期化と環境配慮の観点から長期化するソフトウェアアップデート
スマートフォンを長期でアップデートする意味はあるのか?これは近年になって注目されるようになってきた要素だが、理由としては世界的に端末価格が高騰し、スマートフォンの利用期間が長くなってきているからだ。日本でもスマートフォンの平均利用期間は4.8年という数字が出ており、多くの方は スマートフォンを5年近く利用する形となっている。
5年といえば、今でもiPhone XSやGalaxy S9と言った スマートフォンを利用していることになる。確かに、この世代の機種は街中でも利用している方を見かけることが多い
そして近年ではスマートフォンの利用期間が長くなってきていることに加え、環境負荷軽減といった形でメーカーも長く使えることをアピールもしている。ひとつの商品を長く使うことで環境負荷を抑える考え方として、スマートフォンのソフトウェアアップデートを長期的に行い、長く利用できる製品がユーザーにも支持されるようになってきた。
OSの長期アップデートについてはAppleが先行し、サムスンやGoogleもこれに続く。近年ではファーウェイやXiaomiなどの中国メーカーも長期アップデートを保証している。
2018年に発売されたファーウェイのMate 20Xだが、こちらも中国版は昨年発表された最新のHarmonyOS 3.0へのアップデートが行われている。同社は中国でも長期のOSアップデートを行うメーカーとして消費者から支持されているのだ。
メーカーよりもキャリアの力が強い日本では、アップデートも積極的に行えない
さて、世界的にスマートフォンのOSアップデートが長期化していることについて触れた一方で、日本のスマートフォンはどうだろうか。実は日本市場において、よく言われる「ソフトウェアアップデートを行わないことはメーカーの怠慢」といった形で片付けることが非常に難しい市場だ。
というのも 日本で販売されているスマートフォンの8割はキャリアから販売されている。つまるところ、OSアップデート可否や頻度を決めるのはキャリアであり、これに関してはメーカーが強気に出ることは非常に難しいものと考えられる。
例えば グローバルで展開されるGalaxyについても、 韓国や香港で販売されるものはほぼ毎月セキュリティパッチの配信が行われている。その一方で、日本で販売されている機種に関しては3ヶ月に1回程度の更新となっている。
他のメーカーも見ていこう。日本において支持の強いシャープのAQUOSは、今年発売の「AQUOS R8 pro」などのハイエンドモデルが最大3回のOSアップデートと最長5年間のセキュリティパッチを保証する形となり、グローバルトレンドに追いついた形になった。
ただ 脚注で「キャリアによっては5年間のセキュリティアップデートを提供できない可能性がある」とされており、ここでもキャリアの思惑が絡んでいることが伺える。
確かに公式サイトにもその表記がある
同じく日本で支持を集めるソニーのXperiaについても、OS のアップデート回数に関しては明言を避けている状態だ。これについても、自社で展開するストア版では仮に可能であっても、キャリアで販売されている商品に関してはメーカーとして断言できないといったところから、明言を避けていると考えられる。
それでは、なぜAppleやGoogleはキャリアの意向の影響を受けないのか。答えは簡単で、これらのメーカーの製品はキャリアとしては"のどから手が出るほど"取り扱いたい魅力的な商品だからだ。
仮にこれらの商品にケチをつけて取り扱い不可となった場合、キャリア側の損失が大きいのだ。実際、iPhoneに関しては昨年日本に出荷された携帯電話の約半数近くを占める状態となっており、こんな売れ筋機種を取り扱えないとなった時の損失は計り知れない。
Google Pixelも昨年度は100万台以上の売り上げを達成している。公式直販が円安為替をものともしない攻めの価格設定としており、キャリアの価格も競合に比べると比較的安価だ。今では大手3キャリアが取り扱うなどこちらも無視できない存在となっている。
日本でスマホのOSアップデート期間を伸ばすためには、キャリアの売り方を考えなければならなくなる
スマートフォンのアップデートの長期化については世界的な利用期間の長期化や環境配慮といったところで消費者から評価されるようになりつつある。このような部分からメーカーも積極的に長期アップデートを行う考えになりつつあるのだ。
一方で 日本において、このメーカーの考えが販売するキャリアによっては反映されないことも多い。例としてはグローバル版とほぼ同じ仕様でauから販売されたOPPOの「Find X2 Pro」 が当てはまる。
海外モデルとほぼ同等の仕様であればアップデートにかかる検証コストも少なくなるはずだが、日本向けの機種に関しては1回のOS アップデートに留まっている。
日本向けはauから発売ということもあり「OPG01」という型番になった
このような対応になる理由はいくつか考えられるが、キャリアの商品展開への考え方のほか、対象の商品が売れなかったことを理由とすることも少なくない。
そして、キャリアからしてみるとOSアップデートにかかるコストも馬鹿にならないと言われている。海外で販売されている端末に関しては、「そのまま持ってくればいいのでは」と考える方もいるかもしれない。
そこはキャリアが販売元となる以上、プリインストールアプリはもちろん、自社で提供しているサービスやアプリに加え、提携しているアプリやサービスも確実に動作することを保証しなければならない。
加えて、OSアップデートや機能追加によって操作方法等が変わる場合は、オンライン取扱説明書などの再度作成も必要になってくる。これは操作UIが「間違い探しの領域で変わっても」変更が必要になってくる。
アップデートされない理由を挙げればこのようなものになるが、そういう意味では GalaxyやAQUOS のように「何年間アップデートする」と言ってくれた方が消費者も安心して利用でき、長く使えることを理由に商品選択することもできる。
極論を言えば、このような状況を打開するにはキャリアにスマートフォンを売らせなければ良いのだ。あくまで製造販売、サポートはメーカーが行い、キャリアは通信回線を提供することに特化する。この場合は アップデート等は全てメーカーが責任を持つことになるため、キャリアから横槍等を入れられることもない。
昔と異なり、端末と回線の分離化が進んだものの、キャリアがスマホを売るという構図は変わらない。ここが変わらない限り、同じスマートフォンでもキャリアによってアップデート期間が異なることは避けられないだろう。
他国ではメーカーOSアップデートについても期間や質でしのぎを削って競争が行われているが、前述した通り日本では多くのスマートフォンのアップデート期間や頻度ははキャリアが決めるものとなる。
そして、キャリアによっては売れない機種にはコストを割けないため、買い替え促進で台数を販売したいがために、あえてアップデートについて消極的とし「2年で返却してもらう前提」ではないかという見方すらできてしまうのが現状だ。
消費者としては「できるはずなのに、なぜメーカーはアップデートを提供しないのだ」と考えてしまいがちだが、多くの場合キャリア側の戦略でアップデートされていないことが多いのが現実だ。
最後になるが、日本ではスマートフォンを2年で乗り換えさせる売り方が、長年続いてきた慣習のようなものとして深く根付いている。一方で利用者としては4年以上利用することが多くなってきており、以前のような買い替えサイクルを作り出すことが時代には合っていないのだ。
このような新しい流れもあり、大手キャリアも顧客ニーズへの対応に加え、環境配慮等の対外的なアピールやそれに準じた社会的責任を果たすことも必要になってくる。そのような意味も含め、キャリアはスマートフォンの長期アップデートをメーカーに促すような立場だと考える。
長期アップデートを積極的に行うメーカーを優遇し、アップデートの意欲があっても資金等の理由で難しいメーカーには援助を行うのが販売元のキャリアとしての立ち位置だろう。
魅力的な機種を展開しながらも、長く使うにあたって「当たり、ハズレ」を生み出してしまうような現状のキャリアは消費者にとってマイナスの対応としか捉えられない。
キャリアのスタンスが変われば、スマートフォンはもっと安心して利用できるようになるのではないかと考える。