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法改正で無くなる方向の「1円スマホ」これに頼る大手キャリアは悪しき慣習を本当にやめられるのか?

 総務省は競争ルールの検証に関するWG(第47回)内にて「競争ルールの検証に関する報告書 2023」を取りまとめた。

 内容には、スマートフォンの値引き規制を金額に応じて最大4万円へ緩和する方向となることが明らかとなった。これは回線契約を伴わない購入には適用されないため、いわゆる「店舗独自割引」はできない方向となる。

 現状販売されているスマートフォンのうち、大多数が2万円を超える製品となるため「1円スマホ」も将来的には無くなるものと考えられる。

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1円スマホの例

 

「1円スマホ」を無くしたい総務省に対し、キャリアの反応は「他がやったら1円で売らざるを得ない」

 

 いわゆる「1円スマホ」を無くしたい理由として、過度な利益供与(端末の値引きやキャッシュバック)に依存する既存の構造を廃したいというものがある。そして、この利益供与の原資は一般利用者の通信料が充てられていることから、乗り換え頻度によって利用者の間で格差が生まれる状態になっている。

 2019年の法改正前から特定の利用者へ大きな利益供与が行われるとが問題視されており、値引き規制という形で施行された。

 その一方で、規制の穴を突くような端末値引きを各社は行った。特に高価な端末の値引きや廉価端末の実質1円以上の値引き(潜脱行為)などは総務省のみならず、公正取引委員会からも横やりが入った関係で対応も急務となっている。

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高価な端末を店舗独自割引で値引きする例

 

 特に昨今では総務省の報告書でも「転売ヤー」と名指しで記載されるなど、通信回線を利用することを目的としない契約が問題となった。

 過度に値引きされたスマートフォンの購入目的の他、それを獲得するための「踏み台行為」としてMVNOや楽天モバイルが利用されたことも問題視されていた。

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直近では約7万円のAQUOS sense7 plusがソフトバンクにてMNPで一括1円になるなど、発売から1年経たずして5万円近い値引きになっていたことが話題となった

 

 このような高価なスマートフォンの過度な値引きや「1円スマホ」の存在による従来と何も変わらない利益供与によってスマートフォンを販売する競争慣行については、有識者会議でも下記のような批判的な意見が出ている。

 

通信料金を原資とする端末代金の値引きが横行しており、それはおかしいことを長い間申し上げてきた。現在も1円端末等の非常に大きな値引きをされており、状況は全く変わっていないのではないか。

その販売方法は、一体誰が始めたのかは存じ上げないが、いずれにしてもMNOが自ら始めたものだ。

解決方法として具体的なルールを決めたとしても、また抜け道を見つけて過度な値引きを始めれば、みんながそこに倣うことが繰り返されるのではないかということで、正直言なところ非常に不信感を持っている。

そんなに通信の収入を原資として、今のような売り方で端末の販売を続けられるのであれば、もう端末の販売をやめていただきたいと申し上げたいくらいである。MNO4社として、それぞれきちんと考えていただきたい。

 

:競争ルールの検証に関する報告書2023より 一部要約

 

 この意見はかなり厳しいものだが、行政指導を受けてもなお「1円スマホ」を継続している点は有識者の中でも目に余るものであることは納得だ。

 

 これらの問題に対して、大手通信キャリアは以下のような回答をしている。

 

一括1円の問題については、激しいMNPの競争下において、キャリアが自主的に取りやめることがなかなか難しい状況と認識している。

これに対して、改めて2019年の法改正の趣旨にのっとって、過度な端末割引が実施されないような形、電気通信事業者が提供する白ロム割については、最大割引時でも中古価格というのを一つの目安として上限にすべきではないかと考えている。これを事業法で規律化し、ルール化して運用していくということを要望したい。(NTTドコモ)

競争ルールの検証に関する報告書2023より

 

 NTTドコモは「MNPの競争が激しいので『1円スマホ』を自主的に取りやめることは難しい」とした。これは法改正によって端末の割引規制が強化されたとしても「法の抜け道を見つけられれば」また行われる可能性があることを意味する。その一方で、白ロム割引は一定の基準を持って上限を定めるべきとしている。

 

お客様の実際のニーズに合わせるために、各事業者共に事業法の規律外の部分によって、お客様が少しでもお求めいただきやすくなる値段を実現するような形で、今、販売が行われているが、やや行き過ぎた状況にある。

1社が安値販売を始めると、どうしても競争上対抗せざるを得ないという状況になって、事業法の規律外の部分がどうしても行き過ぎた状況になってしまい、2万1円、あるいは1円端末といった形になって、本来の役務利用を目的としない転売や、転売ヤーによる不適切な取引の問題が頭在化している。

 

中略

 

また、端末単体販売を含めて、端末割引の上限設定、あるいは、どうしても過激な新規やMNPの競争の歯止めとして、例えば、機種変更価格を基準とする割引制限など、こういった検討も必要ではないかと考えている。(KDDI)

競争ルールの検証に関する報告書2023より

 

 KDDI(au)も利益供与は問題としているものの、値引きは消費者がスマートフォンを買いやすくするためとした。また、どこか1社が一括1円等の販売をした場合は、値引きで対抗せざるを得ない状況としている。

 この考え方が継続される場合は、ドコモどのように「抜け道」が見つけられた場合は、同じように競争に乗ってくる形となる。

 

端末単体値引きについては現在規制がなく、端末の安値販売や転売の原因となっているため、対応が必要と考える。過度な端末の安値販売が進むと、MVNOの淘汰、あるいは電気通信市場の発達が阻害される。端末の買換え頻度によって大きな便益の差が生まれ、メーカ間の競争のひずみや、先進的な技術の普及が阻害される。

中古端末市場に影響したり、または転売ヤーの問題が発生するといった問題については理解しており、その抑制のためには、業界の統一ルールが必要であり、回線セットの2万円と端末単体値引きを合わせた値引きの合計に上限規定を設けるという案はどうかと考えている。

以下略 (ソフトバンク)

競争ルールの検証に関する報告書2023より

 

 ソフトバンクではドコモ、auのように「1円端末」には触れなかったものの、端末単体値引きについては転売ヤーの件などを含めて問題視しており、端末の回線の合計値引き金額に上限を設定すべきだとしている。

 

過度な利益提供に頼った競争慣行を根絶するという、規律の本来の目的を達成するために、当社としては、端末と回線がセットであるかを問わず、端末への利益提供については制限を設けるということを提案する。以下略(楽天モバイル)

競争ルールの検証に関する報告書2023より

 

 楽天モバイルも「1円端末」については明言を避けており、ソフトバンク同様の端末単体値引きへの制限をを設けることを提案している。他社と違うところとして、明確に「従来の競争慣行を根絶する」と頭につけているところだ。

 

 

 これら大手キャリアの見解は第37回WG(昨年11月末)の回答となるが、これを見ていると、1円端末といった過度な利益供与と捉えられる販売方法の是正には動いているもの、どこか他社が新しい形の値引きを行った場合は「競争」と言う形で他社も横並びになることを意味している。

 

 これからの法改正によって、廉価販売の抜け道と言う部分はある程度塞がれると考えられるが、どうやらそういうわけにもいかなそうだ。

 次回は1円スマホが規制され、市場の健全化が進む中、改正法でもすり抜けると思われる「抜け道」について考察してみよう。

 

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