値引き規制の変更を含めた電気通信事業法改正が12月27日に迫る中、規制強化の前にソフトバンクが提示してきた新プログラムが話題だ。
同社は明日より「新トクするサポート(バリュー)」を提供する。これは48ヶ月の分割契約で端末を購入した場合、12ヶ月利用した後ソフトバンクに返却することで、最大36ヶ月分の料金を免除するものだ。
既に同社ではiPhone 14、Google Pixel 8、Xiaomi 13T Pro、motorola razr 40sに対してこのプランを適用できるとし、特定の機種では1年で返却する場合は回線値引きを合わせて毎月1円の12回払い。実質12円で利用できるとした。
さて、このような規制の潜り方をしてきたが、コレについて「違法なのでは?」と考える方もいることだろう。
まず、この購入方法については「返却時の残価」を調整している。前半は安価に、後半は高価にすることで、実質的な総支払い金額は変わらないものとしていた。総額が変わらないため値引き規制には抵触せず、規制を掻い潜るものと指摘されていた。
その足音は改正前の今でも行われており、ソフトバンクでは48ヶ月分割で端末を購入した場合、前半24ヶ月と後半24ヶ月の分割料金の内訳を変えていた。これによって高額なiPhone 14はもとい、Pixel 8も発売直後に「実質24円」が可能だった。
規制前はこのような販売方法だった。
今回の新プランでは前半12ヶ月と後半36ヶ月という形で「残価を分けた」形だ。これに加え、端末の回収時に「値引き」の一部を加えている。
回線契約に伴う値引きは法改正後は上限4万円まで可能になったので、高額な端末の場合は値引き率が大きくなった。
これを踏まえると、前半12ヶ月の負担額を4万12円、ここに回線値引き適用かつ、1年で返却すると実質12円で利用できる。法改正後は「過度な値引きはできない」と指摘されていたが、早くも抜け道を突いてきた形だ。例としてPixel 8(128GB)では以下のように変化した
規制前
本体:11万4480円
前半24ヶ月:917円×24 2万2008円
後半24ヶ月:3853円×24 9万2472円
上限2万円の回線値引きを前半24ヶ月に適用することで、実質24円が可能
規制後
本体:11万1600円(本体値下げ)
前半12ヶ月:1833円×12 2万1996円
後半36ヶ月:2489円×36 8万9604円
上限4万円の回線値引きを前半12ヶ月の料金、端末回収時の補填に適用することで、実質12円が可能
もちろん、残価の設定を変更しただけで、いわゆる「白ロム割」は行われていない。端末の支払い総額に変更はないため、値引き規制には抵触しない。
また、買取価格をべらぼうに釣り上げたり、市場価値より過度に高額で下取りすることも禁止とされている。このため、ソフトバンクでは従来の2万円値引きを端末値引きに組み込み、それとは別に合算4万円の範囲に収まるように「買取金額」の調整に充てた。
白ロム割でないこと、中古価格を過度に釣り上げる等の規制をクリアして「実質12円」のスマホを提供できる形だ。
この仕組みには非常に感心してしまった。多くのユーザーはスマートフォンを4年以上使うため、実質的な値引きは2万円で済む。1年で返却という「満額」の割引を利用するユーザーは割合ベースで見ても少数と予想できるため、キャリア側の収益面でもプラスとなる。
返却を1年とした点も、端末の残価がより高額な状態で返却して2年時よりも高価な設定で回収できる。根拠的にも提示しやすく、ここに回線値引きの一部を補填として充てれば、中古相場の変動にも対応しやすい。
キャリアとしても回収した端末を「整備済み品」等の方法で中古販売することが考えられ、総務省が提示した「中古市場活性化」ではプラスに作用する。端末も分割契約かつ、返却時に残りが免除になる仕組みのため、転売目的の購入も減らせる。
最後になるが、ソフトバンクのこの仕組み自体は「消費者に最新のスマートフォンを安価に提供する」という点では非常に魅力的だ。その一方で、この「12円スマホ」の恩恵を受けるユーザーは少数と見られる。
確かに1年でスマートフォンを買い替える方には非常に魅力的な料金設定となるが、直近の消費動向調査でも買い替えサイクルは平均4.6年としており、1年以内に買い替えを行うユーザーは5%にも満たないという。
問題となりそうな公平性の面では「縛り等なく誰でも契約できる」としているため、筆者としては問題ないと考える。一方で、分割契約が主となり流通量は減ることで「中古市場の活性化は限定的」という懸念は残る。
スマートフォンの値引き規制が改正されてもなお続く「1円スマホ」といった廉価提供の存在。今後他キャリアもなんらかの形で続くことになると思うが、どのように立ち回っていくのか注視していきたい。