先日、Qualcommの最新技術「Snapdragon Sound」の体験会が音元出版の主催で行われた。筆者も参加できたのでレポートは追って記すが、今回同社が先日公開したばかりの超低遅延技術を体験することができた。今回はこの部分を中心にご紹介したい。
- 遅延は20ms!LEオーディオと最新技術が可能にした「音ゲー」が遊べる新次元のワイヤレス体験
- 低遅延の秘密は最新のチップセットとLEオーディオ、Qualcommの伝送技術が揃って生まれた
- 音ゲーがワイヤレスで遊べる!そんな日も遠くないと感じさせてくれる「新しい体験」
遅延は20ms!LEオーディオと最新技術が可能にした「音ゲー」が遊べる新次元のワイヤレス体験
今回体験したものは最新技術をもちいた「Snapdragon Sound」のデモンストレーションだ。片方をSBCやAAC、片方を最新のシステムで試すというものだ。参考までに前者は0.1秒ほどの遅延がある。
体験ブースはこのように2台のスマートフォンを並べ、それぞれ別のコーデックにて接続された状態でそれぞれの遅延差を体験できた。
実際にスマートフォンに表示されるピアノを打鍵すると、片方からは明らかに音が遅れでやって来る。大きな遅延があることがわかるのだ。SBCやAACの機種では画面をタップしてから体感的に明確な遅延があるが、今回の技術ではほとんどかじられなかった。
特に楽器演奏は遅延が分かりやすい分野だが、その遅延すら感じさせない技術には驚いたものだ。
今回は特別に手持ちのスマートフォンでも試すことができたので、筆者もよく遊ぶ実際にミリシタで試してみた。端末はXperia 1Vを使用し、通常のタイミングが-2であるところを、ワイヤレス接続時は-4にてプレイ。
試した感想は20msクラスまで遅延を抑えれば、有線イヤホンに近いプレイングが可能であった。この状態であれば、有線イヤホンや本体スピーカーの感覚に近い状態で遊ぶことができた。これは今までに試した中でもトップレベルで遅延がなく、「Bluetoothイヤホンは遅延でリズムゲームが遊べない」といった固定概念を覆すものになるかもしれないプロダクトだ。
ちなみに、クアルコムの方も「楽器やシューティングゲームなどでは検証したが、リズムゲームでの検証は行っていなかった」とのことで、非常に興味深そうにチェックしていたとのことだ。筆者としても好印象のフィードバックをお伝えした。
低遅延の秘密は最新のチップセットとLEオーディオ、Qualcommの伝送技術が揃って生まれた
さて、このシステムの技術的なところを軽く説明すると、このシステムは「LEオーディオ」をベースにしたものとなっている。
これは次世代のBluetoothオーディオと呼ばれるもので、最近良く耳にする「LC3」はそれに乗っかるSBCに取って代わる標準コーデックとなる。既に業界では既存のBluetoothオーディオを「レガシー」と呼んでおり、事実上の旧規格として扱っている。
今回の体験ではLEオーディオの仕様に準拠したaptX Adaptiveコーデックの環境となる。これによって従来より遅延を抑えることができるようになっている。また、遅延の少なさはもちろんSBCなどと比べても音質も良かった。
もちろんLEオーディオに対応しただけでは低遅延を達成することは難しい。今回のデモで使用したものには、昨年発表された最新のBluetoothチップとなる「Qualcomm S5 Gen 2」「Qualcomm S3 Gen 2」が搭載されている。
この最新チップと適切なアンテナ設計等を組み合わせることで、20msの低遅延を可能にしている。また、プロセッサのS5とS3の差はチップそのものの処理性能の差、ニューラルチップの有無としている。
上位のQualcomm S5 Gen 2では、高付加価値を提供するイヤホン等をターゲットにしている。高い処理性能によって音楽再生時や通話時のノイズをシーンに応じて適切に処理するアダプティブノイズキャンセリングや、イマーシブサウンド(各種最適化や空間オーディオ)の構築を可能にしている。
下位のQualcomm S3 Gen 2は性能は劣るものの、安価なことを強みとしており、イヤホンのみならずUSBドングルやオーディオトランスミッタなどへの採用も目指すとしている。また、これらのチップセットはSnapdragon 8 Gen 2搭載のスマートフォン等と組み合わせた場合、ハードウェアレベルで最高48msの低遅延処理も可能としている。
今回のデモでは、USBドングルに「Qualcomm S3 Gen 2」が搭載され、イヤホン側に「Qualcomm S5 Gen 2」が搭載される。
今後はこれらのチップを搭載したワイヤレスイヤホンが登場する見込みであり、USBドングルについてもアプローチする形になるそうだ。
また、USBドングルはスマートフォンの性能のほか、Windows PCやゲーム機をはじめとしたプラットフォームに規格が縛られない利点がある。
今回のデモンストレーションでは、シャープのAQUOS wishが使われていたが、廉価モデルなのでお世辞にもBluetooth関連の性能は良くない。そのような機種でもUSBドングルを用いることで低遅延体験が可能になる。
今回、筆者が手持ちのスマートフォンで体験できた理由も、ドングル式であったことが大きい。
音ゲーがワイヤレスで遊べる!そんな日も遠くないと感じさせてくれる「新しい体験」
さて、ワイヤレスイヤホンとリズムゲームの相性について、筆者も以前に各種論文を引用しつつ考察した。その結果は、遅延を0.04秒(40ms)未満に抑えた機種であれば、タイミング調整次第ではある程度遊ぶことはできる。ただ、高難易度譜面プレイ時は「リズム効果※」の関係で違和感があるという結論に至った。
※体の動きと音楽が同期している状態となり、この場合は人間の知覚範囲を超える反応が可能となる。「ゾーンに入った」などと表現することもある。
現時点でこれを達成している機種はAnker VR P10などと市場を見てもかなり少なく、リズムゲームでもコンテンツによってはかなり厳しいものだった。
専用ドングルで30msの低遅延を達成したAnker VR P10。この機種もドングル使用時はLEオーディオでの通信となる
今回クアルコムがお披露目した技術では、理論上の遅延値は19msとしており、今後はより低遅延を目指すとしていた。
この19msという数字は人気タイトルである「バンドリ!ガールパーティ」や「プロジェクトセカイ feat.初音ミク」のノーツ判定幅である41.16msの半分以下。パーフェクト判定の下限幅内に抑えられている。
これはリズム効果を無視した場合の人間が感知できるギリギリの値であり、デフォルトでも「若干遅いな」位の感覚でプレイ可能なものだ。つまるところ、多少のタイミング調整は必要だが、ワイヤレスでも十分に快適なプレイングが可能なことを意味している。
まさに「Bluetoothイヤホンでは遅延でリズムゲームを遊ぶことはできない」といった固定概念を覆すようなプロダクトとなっているのだ。
最後になるが、同社がはこの技術を楽器演奏の場面やeスポーツといった分野に関心を持つ メーカー等にもアプローチするとしている。従来の ワイヤレスイヤホンの固定概念であった遅延と音の悪さというイメージをここに来て一挙に払拭しようとしているのだ。
筆者としても、低遅延をアピールできる機種が増えることは歓迎だ。今はまだドングルの形だが、いずれは同社のSnapdragon SoCに機能が内包されることも考えられる。このようになれば、スマートフォンと対応したイヤホンの組み合わせで、より低遅延で映像やゲームを楽しむことが可能となる。
Bluetoothイヤホンには遅延があってリズムゲームがまともに遊べない。そんな常識が過去になるのも、そう遠くない未来の話ではないのかもしれない。さて、これらの チップセットが搭載された製品は、早ければ今年中にも発売される見込みだそうだ。今後どのメーカーがどのようなアプローチをしてくるのか、こちらについても気になるところだ。
協力:株式会社音元出版
Qualcomm Japan