高音質な商品が多く登場しているイヤホンの市場。最新の製品もいいものが多いが、中古の市場を見てみると様々な理由で安価に購入できる製品もある。
今回は、発売から10年近く経過したUltimate Ears UE900sをレビューしつつ、今でも通用するようなサウンドなのかチェックしてみよう。
- イヤモニメーカーがコンシューマー向けに出した最上位モデル。定価は4万円
- UEらしい「イヤモニ」サウンド。女性ボーカルリスニングなどに最適
- 販売終了のため購入手段は中古のみ。構成も考えても1万円前後で買えるお手頃さが特徴
- 有線イヤホンとしてもちろん、ワイヤレスイヤホン化の選択肢も生まれた今ならUE900sを買うのはアリ
イヤモニメーカーがコンシューマー向けに出した最上位モデル。定価は4万円
Ultimate Earsは米国のイヤモニメーカーとなる。米国では大きなシェアを持ち、日本でも宇多田ヒカルさんをはじめとしたプロアーティストにも支持されるブランドだ。
現在はプロ向け機種が主となり、純粋なコンシューマー向けは展開されていない。そんなメーカーがイヤモニで培った技術をコンシューマー向け製品につぎ込み、お求めやすい値段で発売したものがUE900という製品になる。
今回レビューするものはその改良版ともいえる「UE900s」というものになる。価格は発売当時の2014年で約4万円の製品となり、一般には「ハイエンド」と呼ばれる価格帯の製品だった。当時は今ほど10万円オーバーの製品もなく、中国メーカーも台頭してこなかったのでひとつの「終着点」とした方も少なくなかったことだろう。
パッケージはコンシューマーを意識したシンプルなものとなる。
本体は黒のフェイスプレートに青いシェルが特徴的なものだった
イヤーピースも多く付属する。ケーブルはiOSデバイスに対応したリモコンケーブルも同梱される
UEらしい「イヤモニ」サウンド。女性ボーカルリスニングなどに最適
UE900sのサウンドハードウェアとしては、バランスド・アーマチュアユニットを採用した機種となる。高域にひとつ、中域にひとつ、低域にふたつのスピーカーを採用したクアッドBAという構成になり、いわゆる3way 4BAというものであった。
親指の爪と同じくらいの大きさに4つのスピーカーが詰め込まれている
また、本体はノイズアイソレーションデザインを採用。外部のノイズを-26db低減することが可能となっており、高い遮音性を達成している。本家のイヤモニに比べると性能は低いが、一般的な利用用途では十分すぎる性能だ。
プロ向けイヤモニに比べればコンパクトで耳への収まりは良いUE900s
そんなイヤホンを早速聴いてみることにする。今回のレビューにて使用するプレイヤーはHiby R8SSだ。
試聴曲は以下の通りだ。
Let you know!/i☆Ris
Polaris/Wake Up, Girls!
スノウ・グライダー/Run Girls,Run!
Shiny Stories/シャイニーカラーズ
スロウリグレット/田所あずさ
いつものです。
さて、UE900sのサウンドはボーカルが一歩前に出てくるような感覚のサウンドというのが適切だろうか。BA機らしい解像感の高さに加えて「ボーカルを捉える」というイヤモニとしてのチューニングも感じさせられる。
この辺りはUEのイヤモニを利用している方のバックアップとして利用してもらうことも想定したようで、プロ向けモデルに通じるサウンドの方向性なども納得だ。
最初に聴いたのは「スロウリグレット」だったが、まず筋をしっかり捉えるボーカルの表現に納得させられる。初めてこの音に触れた時の筆者はまだ学生の身分だったが、UE11 ProやUE18 Proといった10万円オーバーのプロ向け機を買えないからこそ、最も近い音だったこの機種を選んだ背景がある。
結果として筆者を更なる沼に突き落としたことは言うまでもない。そんな魅力を感じるサウンドは今でも健在だ。
続いて「Let you know!」と「スノウ・グライダー」を続けて聴いてみる。解像感の高い心地の良い低域、ボリュームを上げても低域に埋もれたり高域がうるさくならない点は気持ちが良い。低域専用ドライバーがあるため、アタックだけでなく沈み込みもしっかり出てくる。低価格機にあるような芯のなさは感じられない。
「Polaris」や「Shiny Stories」では複数人歌唱による被りもほぐれるような解像感の高さを感じる。ボーカルや楽器にトゲや刺さりの少ない聴きやすいチューニングとなり、イヤモニで培ったチューニングがうまく反映されたものと言える。
ここまで聞いて感じたことは、同社のイヤモニのエッセンスをうまく落とし込んだ傑作とも言える製品だった。発売当時はShure SE535やWestone UM Pro 30というライバルがいたが、その中でも最も「イヤモニらしい」サウンドだったと思っている。
それゆえに苦手なジャンルは少ない。強いて言えば音色や空間表現を重視するクラシック音源などは苦手な部類になると思われるが、ボーカルが絡むコンテンツなら概ね対応できる製品だ。
販売終了のため購入手段は中古のみ。構成も考えても1万円前後で買えるお手頃さが特徴
そんなUE900sだが、5年以上前に生産は終了しており、現時点では中古のみの購入入手となる。その一方で、多くの数が出たことや末期では値下げされたこともあり、中古相場は1万円前後となっている。今でも中古とはいえ1万円前後で購入できるなら、構成を考えても十分お勧めできる製品だ。
特にUE900シリーズ共通の難点として、フェイスプレートの塗装が剥げやすいという難点があり、これが剥げている個体はかなり安価に購入できることが多い。
同世代の競合モデルの中古と比較してもかなり安価に買えることが多いが、価格自体はここ数年変わっていないことから、1万円前後が底値だと考えられる。
専門店の中古をチェックすると概ね1万円台前半で購入できる
さて、イヤホンの中古となれば肌に触れる製品なので、スマホなど以上に中古購入に躊躇いが生じるのは理解できる。確かにケーブルにクセや香料の匂いがあったり、使用されたかもわからないイヤーピースを使うのは抵抗がある方も少なくない。
逆を言えばそれらが交換できる機種なら、まだ購入のハードルは下がると考える。UE900sはMMCX規格のリケーブルが可能な機種となっており、この規格のケーブルはAmazon等でも多く販売されている。
イヤーピースについてはプロ向けのユニバーサル機と共通なので、純正品がまだ購入できる。もちろん自分好みのものを別途購入することができる。
UE900sはMMCX規格のケーブルを利用できる
これを加味しても中古で本体購入、ケーブルとイヤーピースを新調しても物によっては2万円ほどで購入できる。そのような意味でもUE900sはまだ中古購入しやすい機種となっている。
今はイヤホンジャックのないスマートフォンが大半だ!という声に応えるアダプタも存在する。著名なものとしてFiio UTWS5というものがあるが、これを使用するとリケーブル可能なイヤホンを完全ワイヤレス化できるのだ。
こちらの製品は概ね2万円台前半で購入でき、中古のUE900sと合わせても3万5000円ほどの構成だ。音質特化ワイヤレスイヤホンとしての選択肢としては十分になり得る構成なのだ。
また、UTWS5はLDACなどのハイレゾワイヤレス規格にも対応しており、アンプ出力も75mwと一昔前のハイレゾ音楽プレイヤー並みの出力となる。対応するイヤホンも今回紹介したUE900sが採用するMMCX以外に、2Pinコネクタが利用できるものもある。
これより上位にiFi AudioのGo podというものもある。オートインピーダンスマッチング機能を備え、より高品質なアナログ回路を備える意欲的な製品だが、こちらはアダプタ単体で約6万円となるのでややマニア向けの製品となる。
2万円台で購入できるFiio UTWS5
6万円だが、より高音質を目指したiFi audio Go pod
有線イヤホンとしてもちろん、ワイヤレスイヤホン化の選択肢も生まれた今ならUE900sを買うのはアリ
ただ高音質なイヤホンをお得に求めることはもちろん、完全ワイヤレスイヤホンとして利用するような新しい利用方法が生まれたことで、惜しまれつつ販売終了した過去の名機と呼ばれる機種も選択肢に入ってくる。
今回紹介UE900sはMMCX規格のリケーブルが可能なこと、中古で数も多く出ていて今でも入手難度が高くないこと。そして、流通価格も「1万円以下のイヤホンからのアップグレード」というラインに被ることからお勧めとした。
中古製品に考えられるクセなども、ケーブルやイヤーピースを換装することである程度緩和できることもプラスだ。
最後になるが、UE900sは発売当時4万円というコストに見合ったサウンドを体験できる。一般にパソコンやスマホと異なり、オーディオ機器であるイヤホンの場合は経年による陳腐化しにくい製品となる。
特にワイヤレスのように「通信規格」に左右されない有線のイヤホンは、発売から何年経っても使っていけるものだと改めて感じるものだ。
最新モデルはよりコストパフォーマンスを突き詰めたり、最新の音響理論を元に開発されたりとより良い体験ができる機種が増えてきている。その一方で、ビンテージイヤホンと言えるような機種出なければ楽しめない音もある。
約10年前の製品といえど、この琴線に触れる方は少なくないないはずだ。興味がある方は専門店であるe☆イヤホンさんのなどの中古売り場を覗いてみてほしい。