スマートフォンに音楽プレイヤーが取って代わられてから、幾年かの年月が経った。かつて、携帯音楽プレイヤーの代名詞といえばAppleのiPodであったが、物珍しいのか今の若い世代にはかえって新鮮に映るそうだ。今回は若い世代にiPodが新鮮に映る理由を考えてみたい。
画面以外をスワイプする感覚!若者にはiPodのクリックホイールが新鮮に映る
iPodといえば、Appleが2001年に発売した携帯音楽プレイヤーだ。当時はまだ少なかった「mp3プレイヤー」の市場を一気に拡大させた商品だ。現在、iPodの「音楽再生」という役目はiPhoneに譲っており、シリーズそのものは販売終了した過去のものとなっている。
オリジナルのiPodに最も近いプロダクトの最終世代となったiPod Classic 第7世代。この機種も発売から10年以上が経過している
iPodの機能は基本的に音楽やPodcastの再生のみで、音楽の再生に特化した製品だ。のちにコンパクト化したiPod miniや、さらに小型のiPod nanoも登場した。無駄な部分を削ぎ落として画面のないiPod shuffleも鮮烈だった。
そんなiPodも多機能化され、写真の表示や動画再生、ゲームにも対応した。iPod nano 第5世代のようにボイスレコーダーやビデオカメラ機能が備わっていたものもあった。
最後のiPod nanoとなった第7世代モデルは、タッチパネルとなっていた
iPodの概要を軽くおさらいしたところで、若者たちに新鮮に映る理由を調べたり、聞き取りしていくとやはり操作方法が「新鮮」だという。
よく見るiPodの操作は基本的にクリックホイールで行い、円形のボタンは押す操作のほか、ホイールをなぞるように回すことで音量調整やメニューの移動が可能だ。
クリックホイールは円形のボタンの上をなぞるように操作する。今風に言えばタッチパネルに近い操作感と評価できる
そのため、若い世代からしたら見慣れないiPod独特のデザインやクリックホイールによる操作UIが新鮮に感じるようだ。特にアルバムアートワークが並ぶ「Cover Flow」は、筆者がSNSに投稿してもかなり新鮮と感じる方が多いようだ。
円形の部分を回すようにして各種項目を選択する。どの階層からも「MENU」の長押しでトップ画面まで戻れる
これがiPodのクリックホイール。スマホネイティブの若い世代には新鮮に映る操作方法だそうだ。
— はやぽん (@Hayaponlog) 2024年4月7日
確かにタッチパネルに慣れた世代からは新鮮に映るかもしれない。 pic.twitter.com/VqEV6jVeP7
実際に筆者の親戚である10代の若者にiPodを渡してみたところ「何コレ」と言われた上で、やはりクイックホイールを操作することができなかった。そのくらい、iPodは若い世代にはなじみのない製品となっているのだ。
アルバムアートワークが並ぶCover Flow
クリック ホイールの利点は、保存した楽曲が多くなった際や画面スクロールが多い場合に、ホイールを回す操作で直感的かつ少ない操作で利用できた。ボタンを複数回押したり、長押しする操作が少ないことで、物理的な故障が少ないと言った利点もあった。
その一方で、ポケットに入れたままの操作が難しいという難点があった。ブラインドでの操作はかなり慣れが必要だった。また、クリックホイールはスマホの画面と同じ静電容量方式のため、ポケットに入れていると汗等で誤作動する可能性があるといった難点もあった。
クリックホイールの難点に目をつけたソニーのウォークマンは、ボタン操作を主体としたUI設計にしていた。ポケットに入れたまま操作がしやすいことを売りにしていた。
そしてiPodといえば、ピカピカに磨き上げられた鏡面ボディだ。こちらは金属加工で著名な新潟県の燕市の工場にて加工されていたことも記憶に新しい。
こちらもガラス筐体のiPhoneが主流となった今では、新鮮に感じるもののようだ。筆者のように10年近く使ってくると本体にはスリ傷等が入るが、これもダメージジーンズのように味という形で現れてくる。
故スティーブ・ジョブズ氏も傷のついたiPod を「 味」と表現していた
音楽プレイヤーとしてみた音質については、必要十分といったところだ。当時のiPodはウォークマンと比較して音が悪いと指摘されていたが 、これはデフォルトのCD取込み時の変換ビットレートの差、DSEEといったDSP処理が大きい。
無圧縮で取り込んだ音源を同じ条件で再生した場合、アンプ部に明確な差を持つウォークマンの上位機種を除き、音質差を感じる場面は少なかった。
iPodの場合は付属イヤホンの音があまり良くなかったことも、「音が悪い」という評価の大きな要因といわれている
iPodの充電コネクタと言えば、Lightning端子ではなく30Pin Dockだ。これはiPhone 4SまでのiPhoneでも使用されており、今でも比較的容易に購入可能なケーブルだ。
10代の若者に「10年以上前のiPod」が新鮮に映る理由。背景にはマルチメディア化したゲーム機とスマホの存在
さて現在の10代の層に、昔ながらのiPodが新鮮に映る理由とは何なのだろうか。色々と考察できるが、結論としては「使ってこなかったから」という単刀直入なものだ。
この世代は、小学校に入学する前からiPhoneといったスマートフォンが存在している世代。音楽再生機器を欲しがる年齢になるころには、当たり前のようにスマートフォンが身近に存在しており、様々なものを選ぶことができた。
保護者や兄弟のお下がりをきっかけに、このような製品に触れた方も少なくなかったことだろう。
加えて、携帯ゲーム機のマルチメディア化が進んだことも、iPodなどの音楽プレイヤーに対して親近感が薄い理由のひとつだ。SCEのPlayStation Portable(PSP)や任天堂のDSiや3DSといった携帯ゲーム機では、SDカードに保存した音楽を再生することができた。機能的には実質的なmp3プレーヤーと同義だ。
3DSも専用のソフトウェアでSDカードに保存した音楽の再生が可能だ(画像:任天堂株先会社)
若い世代が初めて触れるモバイルガジェットは「携帯ゲーム機」と評される。その携帯ゲーム機に音楽再生の機能が備わっていれば「音楽しか再生できない」iPodやウォークマンの出番はおのずと少なくなってしまうのだ。
もちろん、生活シーンにiPodが存在しなかったわけではない。ただ、この世代が「iPod」を指す場合は、iPhoneと同じiOSを採用したiPod touchの場合が極めて多い。こちらは2008年以降、モデルチェンジを重ねて2022年まで長期間販売されていたこともあり、若い世代でも認知度はある。
端末についても、安価であること。契約を必要としないスマートフォンのような端末だったことから「スマホを購入してもらう前に利用していた」という方も少なくないのだ。
iPod touchの見た目はiPhoneのようなものだ。若い世代が「iPod」と呼んだ場合は9割以上の確率でこの製品を指すことが多い
つまるところ、若い世代では音楽再生可能なスマートフォンや携帯ゲーム機の存在で、音楽しか再生できないiPodを積極的に選ぶ方は少なくなったのだ。仮に選んだとしても、iPhone並みに多機能なiPod touchのイメージが強いのだ。
そのため、今の10代の若い世代ではより多機能な製品の普及によって、iPodをはじめとしたmp3プレイヤーという「音楽再生専用機」をスキップしてきたことになるのだ。
その中でもiPodはタッチパネルを備えず、クリックホイールという未知の操作を行う。従来のiPodに対して、新鮮味を覚えることも理解できる。
iPodのサイズは概ねバルミューダフォンくらいのサイズだ
最後になるが、若い方には新鮮に。ある程度の年齢を重ねた方は"懐かしさ"を感じるiPod。これを新鮮に感じる層がいるということは、今後数年以内にオマージュしたプロダクトが出てくる可能性は大いに有り得る。
令和の時代に、再びクリックホイールを持つ iPodのようなものに出会えるかもしれない。そんな未来を少しばかり期待していたい。