5月30日「arrows」シリーズのスマートフォンを販売しているFCNT株式会社が、東京地裁に民事再生法適用を申請したと帝国データバンクが報じた。負債額は2022年3月期決算で約773億6000万円としている。
それに合わせてFCNTは同日プレスを更新。携帯電話事業の今後について、現時点で支援を得られない場合は速やかに携帯電話の開発、販売事業を終息させる方針を示し、富士通は事実上の携帯電話市場からの撤退という形となった。
プレスより抜粋
富士通のARROWSを振り返ろう
富士通のスマートフォンと言えば、ARROWSシリーズだ。黎明期から市場を支え、「ガラスマ」と呼ばれるおサイフケータイ、ワンセグ、赤外線通信と言った三種の神器を真っ先に採用するなどの「ローカライズ」に徹底していた。
防水機能もしっかり備えるなど、普段使いに適したスマホとして当時から注目を集め当てた。
後に東芝の携帯電話部門を買収し、富士通東芝モバイルコミュニケーションズとなるなど、事業拡大も行っていた。
ただ、黎明期の機種にありがちな不具合や発熱にも苦しんだのも事実だ。それでも、指紋認証や虹彩認証をいち早く導入したり、オンキヨと手を組んで音質を強化したりと他社との差別化も図っていた。
そんな富士通のスマートフォンは堅実な設計と、国内メーカーという立ち位置から支持を集めた。
4コアプロセッサを採用したが、発熱に悩まされたARROWS X F-10D
世界初の虹彩認証対応スマホ ARRWS NX F-04G
2018年に富士通の携帯電話事業を投資ファンド「ポラリス・キャピタルグループ」へ譲渡するにあたって「富士通コネクッテドテクノロジーズ」を設立。
後にFCNT株式会社に社名変更し、今に至るまで富士通ブランドの携帯電話事業の運営を担当していた。そのため、FCNTと富士通との資本関係は無い。
FCNTではリファレンスモデルの「arrows 5G」やarrows beシリーズをドコモ向けに展開していた。
直近では3キャリアに展開したarrows weが高い評価を得ており、100万台を超えるヒット商品となっていた。メーカー別シェアでも直近の調査では3位につけるなど、かなり好調であった。
ヒット商品となったarrows we
FCNTの撤退理由は廉価端末へのシフトによる利益率低下か。背景にはコスト増だけでなく総務省の2万円規制も
さて、FCNTの民事再生法適用の背景には、半導体不足によるコスト増、為替や物価高のほかにも廉価端末へシフトして採算性が悪化したのではという意見がみられる。
事実直近3年間で展開した機種はほとんどが5万円以下の端末となり、1台当たりの利益がかなり少なくなっていたと考えられる。この廉価端末路線は、キャリアと密接な販路を持っていたFCNTには大きな影響を受けている。要望に応える形で廉価な端末を展開したが、これには常に「2万円ルール」が付きまとう形となった。
このルールは総務省のが改正電気通信事業法に定めたもので、過度な値引きによって市場が不健全になることを防ぐために値引きを「上限2万円」とする措置であった。
これによって、高価な端末の「一括1円」などはできなくなった。これに対してキャリアがこの値引きを継続させるために「2万円のスマホ」を求めることは容易に想像できる。この要望に応えたのがFCNTであったのだ。
その一方で、iPhoneなどの人気端末を売りさばかなければならない状況は規制前と変わらなかった。結果として、キャリアは高価な端末を採算度外視で値引きし、販売するようになった。このような状況では2万円のAndroidスマホなど売れるわけもなく、厳しい状況が続いていた。
廉価なarrowsの隣でiPhoneが同じ条件で販売されるなど厳しい状況も見られた
この規制にはキャリアによって廉価になりすぎるiPhoneなどから、国内メーカーを守る側面もあったが、キャリアはこれを掻い潜る形でiPhoneを廉価に売りさばいた。
その結果、キャリアの要望通り廉価端末に重きを置いたFCNT。利益率が低い廉価な端末は数を売らなければ、利益を確保するのが難しいものだ。そんな市場に身を置かざるを得なかったFCNTは、端末販売における利益率の低下も遠因となって事実上の倒産という最悪のパターンによる撤退となってしまった。
最後になるが、総務省は今になって値引き規制を2万円から4万円に緩和し、廉価な端末の基準も4万円以下にする方針を示している。この検討が、あと1年早ければFCNTもこんな形にはならなかったと考える。まぁ、何を言ってももう今さらであとの祭りなのだ。富士通も京セラももう帰ってこないのだから。