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半導体不足と急速な円安が富士通のスマホにとどめを刺した。ベストセラーの「arrows We」を使ってわかった高コストな仕上がり

 先月、民事再生法適用によって携帯電話市場から事実上撤退したFCNT。富士通ブランドを取り扱っていた同社は、直近の携帯電話出荷台数ランキングでは3位につけるなど、好調な様子を見せていたメーカーであったが、なぜこのようなことに至ったのか。
 今回は同社が2021年から累計100万台以上を販売したというベストセラーモデル「arrows We」 を実際に使ってみて、至った経緯について考えてみよう。

 

廉価でもコストをかけて他社としっかり差別化。起死回生のベストセラーとなったarrows We


 まずarrows Weのスペックを簡単におさらいしよう。このスマートフォンはドコモ、au、ソフトバンクの大手3社に提供されており、いずれも3万円以下で販売される原価帯のスマートフォンだ。納品先のキャリアにおいて若干の使用が異なるものの、基本的なスペックは変わらない。

 

SoC:Snapdragn 480 5G
メモリ:4GB
ストレージ:64GB(SDカード利用可能)

画面:5.7インチ TFT液晶 HD+解像度

カメラ
メインカメラ:1300万画素
深度用カメラ:200万画素
フロントカメラ:500万画素

バッテリー:4000mAh

OS:Android 11(Android 13へのアップデート提供済み)

 

指紋センサー内蔵

防水、防塵、MIL-STD810耐衝撃対応

 

価格

ドコモ:2万2000円

au:2万6180円

ソフトバンク:2万7360円

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arrows Weの本体はプラスチック筐体となる。

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安いながらもイヤホンジャックなどはしっかり備える。国内向けの需要をしっかり拾えているエントリースマホだ。

 

 実はこの機種については、競合している端末と比べても割と高機能にまとまっている。価格的に近いシャープの「AQUOS wish」を比較に出してもプロセッサやメモリ、ストレージは同じものの、シングルカメラやバッテリー容量を削るなどのコストカットが伺える。

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必要最低限に抑え、低コストを突き詰めたAQUOS wish


 その一方でシャープはホンハイのバックアップもあり、パーツコストなどはある程度圧縮されると考えられる。そして、同社の売れ筋となる主力商品は4〜5万円台のAQUOS sense シリーズだ。

 arrows Weは生産台数こそ多いが、原価的なところを見ると、指紋センサーデュアルカメラなどのハードウェア的な差から高価になっていると考えられる。これに加えて、MILスペックやボディーソープで洗えるといった検証コストもかかっていることから、AQUOS wishよりも高価になっていると考えられる部分が多い。

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arrows Weは耐衝撃性能も備える

 

 この辺りはメーカーからの提案はもちろん、キャリアからの要望も多い。arrows Weは3キャリアに納品してるものの、すべて異なる仕様となっているため、そのあたりも若干のコスト増になっているのではないかと考えられる。

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arrows Weでもソフトバンク版はeSIMに対応するなど仕様が異なる

 

半導体不足による原価高騰と急速な円安がさらなる利益低下に。廉価端末にとっては逆風へ

 

 この arrows Weは国内生産ではなく、中国でのODM生産であることが開発者インタビューで触れられている。販売開始が2021年なので、部品の選定やライン構築を考えると2020年半ばごろから企画が進んでいたと考えられる。
 日本における販売についても、3キャリア合計100万台以上を出荷したベストセラー機となり、今に至るまで約2年間販売し続けたロングセラーの商品となる。

 さて、長く販売するとなれば、このスマートフォンは為替の影響を受け続ける。言ってしまえば、製造時期によって原価そのものが異なるのだ。最終的な納品価格が変わらない限り、円安が進めば進むほど利益が圧縮されていく形となってしまう。

 

 スマートフォンにおいては、半導体不足による原価の高騰はもちろんのこと、これらの部品はドルでの決済がほとんどのため、円安による為替の影響を大きく受ける。各種部品代を100ドルと仮定しても、その際の対ドル相場は下のようになる。

 

2021年5月:108.81円→1万0881円
2023年5月:138.88円→1万3888円


 2年で30円も円安が進んだ結果、原価ベースで約3000円の高騰となる。製造段階における発注なので円安は進んでいないためもう少し安いと考えられるが、それでも長期にわたって生産を続けるに当たり、当初よりも数千円単位で原価が高騰していると考えられる。

 また、中国に製造委託している以上は対価もドルまたは人民元での支払いとなる。ドル相場に限らず対人民元相場も2年間で1元=3円ほどの変動が起こっている。1台製造するのに300元のコストとした場合でも、為替の関係で800〜1000円ほどの高騰となる。

 

 一般に利益率が低いと言われるこのような端末では、円安による相場変動は大きな命取りになる。仮に1台販売して3000円ほどの利益が生まれると考えた場合、為替の変動だけでこの利益そのものが消し飛んでしまう可能性は大いにあるのだ。

 

廉価端末に絞って利益低下。加えて原価高騰と円安がとどめとなったか。他のメーカーは大丈夫か。


 最後になるが、以前にFCNTのスマートフォンは魅力をアピールできる上位機種がなく、利益率が高い機種が少ないことを指摘した。実質的な屋台骨となったarrows Weは確かに他社の競合製品よりは魅力的な機能が多く詰まっているが、その分原価も上がっているはずだ。


 ましてや携帯電話しか作っていないFCNTは他事業での補填やグループのバックアップも見込むことができない。廉価端末に軸足を移した結果、利益率が低下に加えて、半導体不足による原価高騰。コロナによる物流停滞と高コスト化、急速に進んだ円安が同社の命運にとどめをさしたと言ってもいい。

 

 今回、arrows Weを実際に使って改めて感じたこととして、端末の完成度そのものは非常に優れていたことだ。以前のような発熱でどうしようもない挙動したり、機能不全といったところも感じなかった。ファストランチャーと言った独自機能も備えており、最新のAndroid 13へのアップデートも行われるなどサポートもしっかりしていた。

 

 日本メーカーの信頼を備えながら3万円以下のコストに抑え、防水やFeliCa、耐衝撃性能などの日常使いで求められているものをしっかり押さえている。
 もちろん、細かいところを指摘すれば惜しいと思えるところ。力をつける中国メーカーの機種に負けるところもあるが、「安心して使えるスマートフォン」ではしっかり立ち位置を確立していたように思う。

 

 この現象は決して他人ごとではない。為替的に不利な今の状況では、海外メーカーも事業規模の縮小や撤退も十分に考えられる。国内に盤石な地盤があるシャープやソニーも絶対安全だとは言い切れないものなのだ。

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惜しまれつつも撤退したメーカーもあった


 利益率が高く、自社の強みをアピールできるハイエンド端末を市場に投入できなくなった結果、特定の廉価端末のみに注力することになり、さらなる利益率の悪化を招く。

 このような傾向になってしまったら、メーカーとしては“あまり良い状況ではない"と消費者に感じとられてしまうものだ。

 

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