数々の完全ワイヤレスイヤホンが出る中、Noble Audioが昨年「FoKus Proを超えた」として市場投入した超高音質フラグシップモデルがある。今回はNoble AudioのFoKus Mistiqueについてレビューしてみよう。
- 高音質極振りがさらに進化!最高音質のワイヤレスがFoKus Mistique
- 進化した最高音質完全ワイヤレスイヤホン FoKus Mistiqueを聴いてみる
- この音をスマートフォンだけで楽しめる点がFoKus Mistiqueの最大の魅力
- 最高の音質を最大限に生かすにはaptX Adaptive対応のスマホを使おう
高音質極振りがさらに進化!最高音質のワイヤレスがFoKus Mistique
はじめに言っておくが、FoKus Mistiqueの価格は6万円前後だ。正直なところ、高級ファッションブランドを冠した完全ワイヤレスイヤホンを除くと群を抜いて高額な商品となる。
そんなFoKus Mistiqueは通常の完全ワイヤレスイヤホンとは、開発コンセプトそのものが異なる商品だ。一般にパーツ等の制約がある環境下で音作りをしてることが大半で、理由としては「完全ワイヤレスイヤホンはスマートフォンの周辺機器」を前提に置いて開発されている点が挙げられる。
一方で、このFoKus Mistique関しては「高級イヤホンにワイヤレス用の基板を乗っけたら面白くない?」くらいのアイデアから生まれ、それを実際にやってしまった商品だ。
そもそもNoble Audioはプロ向けカスタムIEMなどを手がけるメーカーだ。このFoKus Mistiqueも例外ではなく、サウンドチューニングは創業者であるジョン・モールトン氏が手がけている。そのため、商品の発想から音作りから普通の完全ワイヤレスイヤホンとは異なるもので、まさに「有線のイヤホンからケーブルを取っ払った製品」なのだ。
FoKus Mistiqueのデザインはまさに「接続コネクタのないイヤーモニター」であり、本体のシェル(筐体)もプロ向イヤモニ同等のレジンシェルだ。シェルプレートのデザインも「いかにもなワイヤレスイヤホン感」が無い。
本体がイヤモニのシェルベースなので、ノイズキャンセリングがなくても遮音性は良好だ
充電ケースは金属製で高級感がある。FoKus Proと外観的に同じなので、代わり映えしない点は惜しい。材質的に傷が目立ちそうなのが難点か
進化した最高音質完全ワイヤレスイヤホン FoKus Mistiqueを聴いてみる
FoKus Mistiqueの構成は1ダイナミックの2BAドライバーを採用し、いわゆるハイブリッド型の構成だ。実のところ、オーディオハードウェアの基本的な構成はFoKus Proから変えていないという。
そのため、本体の対応コーデックもFoKus Pro同様のSBC/AAC/aptX/aptX Adaptive(24bit/48KHzまで)だ。aptX Adaptiveは高音質転送にも対応したコーデックなので、こちらに対応しスマートフォンや音楽プレイヤーと組み合わせるとよい。
今回のレビューにて使用するスマートフォンはソニーのXperia 1 Vだ。aptX Adaptive対応はもちろんのこと、ハイレゾストリーミングのビットパーフェクト再生、Buletooth機器でもアップスケーリングのDSEE Ultimateや各種イコライザーが使用可能な点からチョイスした。今回の試聴曲は以下の通りだ
あんなに一緒だったのに/See-Saw
ガンダムSEEDのエンディングテーマ曲です。
pink monsoon/シェリル・ノーム starring May'n
劇場版マクロスF イツワリノウタヒメより
GIRAFFE BLUES〜Kaname Solo Requiem〜/カナメ・バッカニアΔ安野希世乃
マクロスΔ レアトラック集より
リトルソルジャー/田所あずさ
いつものです。
FoKus Mistiqueを聞いた第一声は「本当にこいつ ワイヤレスイヤホンなのか?」という素直な感想だ。そして、前作のFoKus Proに比べるとかなり濃密な音になったことが特徴的だった。
確かにFoKus ProやMistiqueの音は「完全ワイヤレスイヤホンが出す音」ではなく、ある意味別次元の製品だ。目を閉じてこのイヤホンを着けられて、「これがワイヤレスイヤホンの音か?」と問われて答えられる方はいないだろう。そのレベルのサウンドクオリティなのだ。
最初に聴いたのは「pink monsoon」だが、先代のProとは違った表情を見せる。特に異なるのは低域の表現だ。モニターライクでタイトな低域のFoKus Proに対して、FoKus Mistiqueはやや横に広がるものとなった。これによって立体感が出るようになり、より「リスニングライク」なイヤモニの音になった印象だ。
もちろん、低域の表現や音の捌きっぷり、ボーカルが刺さると言った感覚はほぼなく、ハイエンドイヤホンらしい音作りとなっている。この音を完全ワイヤレスで鳴らされたら文句なしだ。
続いて「あんなに一緒だったのに」「リトルソルジャー」を続けて聴いてみる。これまたボーカル域の表現がうまく、ボリュームを上げても低域に埋もれたり高域がうるさくならないのが凄いところだ。FoKus Proよりもサウンドステージが広くなったので、より存在感を示せるものになっている。
「GIRAFFE BLUES~Kaname Solo Requiem~」では音の解像感の高さを改めて感じる次第だ。ボーカルや楽器にトゲのない聴きやすいチューニングがされており、ハイブリッド型のユニット特性のいいところをFokus Proよりもさらにうまく生かしたものと言える。
一般的にこのようなハイブリッド構成の機種になると、スマートフォンではいわゆる「鳴らし切れない状態」となることが多い。高音域にパワフルさがない「ハイ上がり」と言われる音だったり、低域にキレが無くなることで「芯のないサウンド」と言われるようなものになることが多い。
しかし、FoKus Mistiqueではそのようなサウンドの窮屈さ、物足りなさを一切感じない。サウンドステージもしっかり確保され、何なら女性ボーカルの「不快なさ行のささり」もかなり抑えられている。一言で言えばFoKus Pro以上に「すごく聴いてて楽しい音」に仕上がっている。有線イヤホンでも3〜4万円台のサウンドクオリティだと言っても過言ではないだろう。
加えて音量も普通の完全ワイヤレスイヤホンより明らかに大きい音が出るのも嬉しい点だ。この手のイヤホンでは本体のアンプの関係で音量が出せないのだが、FoKus Mistiqueではスマートフォンの8割くらいまで音量を上げて利用してる方でも6割くらいの音量で楽しめる。
この音をスマートフォンだけで楽しめる点がFoKus Mistiqueの最大の魅力
ワイヤレスイヤホンの最大の特徴として、やはり接続する機種を選ばない点だ。これは実売価格が6万円のFoKus Mistiqueでも言える点であり、この機種が持つ最大の魅力がこの点でもあるのも筆者なりに感じた次第だ。
先述の通り、このようなハイブリッド構成のイヤホンを綺麗に鳴らすにあたって、普通のスマートフォンのイヤホンジャックからの出力ではまともに鳴らすことができない機種が大半だ。仮に3万円程度のイヤホンをXperia 1 Vなどのスマートフォンで使用しても音量が取れない、満足に鳴らせない状態になることがある。
しかし、FoKus Mistiqueではそんな組み合わせや、専用プレイヤーなどを考える必要はないのだ。お手元のスマートフォンとBluetooth接続するだけで、最高のサウンドを体感できてしまう。
ワイヤレスイヤホンに6万円という価格に躊躇するかもしれないが、専用プレイヤーとそこその値段のイヤホンを買えば気が付けば7万円くらいになってる例も多い。これを買えば「イヤホンスパイラル」が完結するとなれば妥当な値段だ。
使い勝手ではFoKus Proをアップデートした結果、外音取り込み機能が搭載された。これによって普段使いでは使いやすい製品となった。正直、機能のクオリティでは近年のハイエンド機に比べて劣る場面はあるが、以前の「音質特化」よりも普通に使えるようになった点はありがたい。
シェルには外音取り込み用のマイク穴が開けられている
また、他の完全ワイヤレスイヤホンに比べて人混みでも音が切れることはなかった。再生時間も公称値で7.5時間、ケースは3〜4回のフル充電が可能と連続再生時間も十分だ。
最高の音質を最大限に生かすにはaptX Adaptive対応のスマホを使おう
FoKus Mistiqueの音質を最大限に楽しむにあたって、お手持ちのスマートフォンや音楽プレイヤーがaptX Adaptiveに対応してるか確認しておくことが大切だ。
筆者の手持ちの機種で確認した限りでは、iPhone 14 ProやGalaxy S23 Ultra、Pixel 7 ProではaptX Adaptiveに非対応であった。これらの機種ではAACまたはaptXでの対応となるので、FoKus Mistiqueの音質を最大限に発揮する事は難しい。
筆者のおすすめはレビューに使用したXperia 1 VやAQUOS R8 pro、ROG Phone 7といったハイエンド機だ。いずれも最新のBluetoothコーデックに対応している。
さて、ここまでFoKus Mistiqueを聴いてきて、完全ワイヤレスイヤホンの音質もここまで来たかと改めて感心させられた。機能面ではノイズキャンセリングも無ければ、スマートフォンとの強固な連携機能もない。ただ、「音だけは誰にも負けない」と評価できる。そんなワイヤレスイヤホンだ。
実のところ、筆者は昨年開催されたポタフェスにて、まだ発売前のFoKus Mistiqueを試聴してきている。この際に担当者からは「FoKus Proのハードウェアで、限界までチューニングを追い込んだ製品」と説明された。その際はあまりピンとこなかったのだが、こうして聴き比べると「こちらのほうが好き」と評価できる曲もいくつかある。
Fokus Proの後継機ことFokus Mystiqueを試聴してきました。写真はバリエーションモデルのFokus Prestige。
— はやぽん (@Hayaponlog) 2022年12月18日
基本的にFokus Proからベース構成は変わらず、より追い込んだチューニングに仕上げたとのこと。サウンドとしては低域がより出るようになり、空気感の表現が良くなっていた。
#ポタフェス pic.twitter.com/4ThSandb3z
このサウンドについて、高音質なポータブルリスニングに興味がある方はもちろん、既に多種多様なイヤホンをお持ちの方にも是非聴いて頂きたいところだ。同価格帯の有線イヤホンに比べればサウンドクオリティは劣るかもしれないが、「この音をスマホ単独で鳴らせるイヤホン」が果たしてあるだろうか?筆者の思いつく限りでは見当たらなかった。
さて、筆者はこのFoKus Mistiqueを手にしてから、FoKus Proと使い分ける日々になってしまった。高音質をアピールする完全ワイヤレスイヤホンを聴いてもどこか物足りなさを感じてしまうのだ。
数万円の音楽プレイヤーを別途必要とせず、音質的には不利と言えるスマートフォンだけでこの音が鳴る。これだけでもFoKus Mistiqueの6万円という価値はあると筆者は感じる。皆さんも興味があれば量販店等で一聴して欲しいイヤホンだ。