ファーウェイが日本でも10月に発売した新型の完全ワイヤレスイヤホン。最新技術を惜しみなく投入したFreeBuds Pro 3を手に取れる機会があったので、今回レビューしてみることにする。
- スマホ屋が本気で作ったイヤホンをチェック!より高音質に仕上げたハードウェアと進化したサウンドチューニング
- 強力なノイズキャンセリングが売りのFreeBuds Pro 3。通話性能や操作性も最強クラスに
- 高音質、高性能ノイズキャンセリングを備えながらも2万円台は破格
スマホ屋が本気で作ったイヤホンをチェック!より高音質に仕上げたハードウェアと進化したサウンドチューニング
市場競争が過熱する完全左右独立型イヤホンの市場。今年も各社ハイエンドモデルや新型商品が発表されるなど、ますます注目度が高まっていくセグメントだ。そんな中でスマホメーカーとしてお馴染みのファーウェイが、満を持して発売したフラッグシップイヤホンがこのFreeBuds Pro 3になる。
箱はスマホメーカーのイヤホンでよく見かけるタイプのものだ。今回はグリーンを使用する
ケースは艶消しの加工がされている。サイズはやや大きいが、Qi規格の無接点充電にも対応だ。
本体の収まり悪くない。いわゆるAirPods Proのようなものになるが、ケースの取り出し口に傾斜をつけたことで、よりイヤホンを取り出しやすく改善された
本体は比較的小型だ。従来モデルよりも軽量化している
FreeBuds Pro 3の対応コーデックとしては、SBC/AAC/LDAC/L2HC(ファーウェイ独自)に対応している。LDACではハイレゾ相当となる24bit/96kHz再生も可能な一方で、低遅延が特徴のaptX系には非対応だ。
コーデック面ではトレンディなところを押さえるが、核となるオーディオ面についても妥協はない。ドライバーユニットは11mm経のものを採用している。マグネットを4つ配列しており、高い駆動力を持たせることで14Hzからの低域を再現できるという。
これに加えて、高域用には独自開発のマイクロ平面振動板ドライバーを搭載。マイクロ平面ドライバーはマグネットのハルバッハ配列(磁界を片側に集中させ、磁力をより高める配列)を採用したアップグレード品となり、これによって従来よりも伸びやかな高域を再現できるとしている。また、これらを調整するネットワークについては、デジタルクロスオーバーを採用した2Wayのものとなる。
平面ドライバーは通常のダイナミックドライバーに比べて、構造的に位相ズレや損失が起こりにくい点が利点だ。一方で、並のポータブル環境では鳴らしにくいという難点がある。今では、一部の完全ワイヤレスイヤホンでも同様のドライバーユニットを採用するものがあるが、ファーウェイの場合はこのユニットを独自開発できた点が最大の強みとなる。
マグネットをハルバッハ配列として感度を上げたことも、完全ワイヤレスイヤホンという制約の中ではプラスとなる。マグネットのハルバッハ配列は近年モーターなどの開発分野で注目されるものだが、音響分野ではスピーカーのマグネットに使用することで感度の向上、信号の遅延が少ない点、高調波ノイズが少ないことから注目されている。
一方で、マグネットをこの配列にする生産性が良くなく、つい10年くらい前までは「量産に適する方法が見つからない」とまで評されていたものだ。筆者も知る限り、ハルバッハ配列のマグネットを使用したスピーカーは研究室レベルの実験段階のものが少なくない。そのため、この配列を採用したイヤホンは世界的に見ても例がなく、よくぞ採用できたという驚きが強い。
加えて、従来に引きつづきAEM(Adaptive Ear Maching)も可能だ。これはイヤホンを装着している際に内部のセンサーを使用して、外耳道の構造や装着時の密閉度を検出し、常に最良の音質に最適化するものだ。
人間において全く同じ形状の耳道はない。そのため、イヤホンの左右で音に違和感を覚えたりすることがある。一方で、このイヤホンの場合は本体側で、違和感の元になる部分を補正して出力することが可能だ。この機能は究極のパーソナライズと言えるもので、理論上はどんな耳道の形状であろうと、理想的な音響環境を提供することが可能になっている。まさに次世代のイヤホンだ。
サウンドチューニングについては、今回フランスの音響メーカー「Devlalet」との共同ではなくなったものの、同社のノウハウも盛り込んだアップグレード製品としている。ファーウェイ自体も2012年から音響ラボを設立して研究を続けており、今回の製品はその音響技術の賜物と評価できるのだ。もちろん、グラフィックイコライザーも備えるので、ユーザー好みの調整も可能だ。
スマホ屋のイヤホンとは思えない高音質サウンドがさらに進化。
音にも妥協はないと触れ込みのFreeBuds Pro 3を早速聴いてみることにする。今回の試聴曲はこちら
ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会より Eutopia/鐘嵐珠
アイドルマスターシャイニーカラーズよりSWEETEST BITE/SHHis
機動戦士ガンダムF91より ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~/森口博子
マクロスΔより不確定性⭐︎COSMIC MOVEMENT/ランカ・リー=中島愛
スロウリグレット/田所あずさ
今回の試聴環境はスマートフォンにソニーのXperia 1 Vを採用し、LDACの環境で使用する。ストリーミング環境もスマホ単独で24bit/96kHzの再生が可能で、LDACにある意味適したハードウェアを備える機種だ。
実際に聴いてみると「所詮はスマホ屋のイヤホンじゃん。」と下に見ていた自分を昨年同様に殴りたくなる。抜けの良い高域、滑らかで解像感の高いボーカル、厚みのある低域。音に関しては何を取ってもApple AirPods Pro(第2世代)などからひとつ抜けたところにいる。
高域は伸びやかで解像感の高さが特徴的だ。いわゆるハイブリッド型ながら変なクセはなく、BA型のような金属的な固さもない。平面ドライバーを使っている関係か、適度な抜けの良さも兼ね備えている。そして大きく進化したポイントは低域再生だ。特にレスポンスは大きく向上しており、EDMをはじめとした現代音楽にもしっかりマッチする。
この高域の抜けの良さはかコーデックに大きく依存する。伸びやかな高域を体験したいのであれば、LDACやL2HC環境での利用を強くオススメする。ボーカルの滑らかさや低域の量感、レスポンス共に高いレベルだと感じた次第だ。完全ワイヤレスイヤホンでここまで上手く鳴らせるのであれば上出来だ。
最初にスロウリグレットを聴いてみる。透き通るヴォーカルに対して、高域の伸びやかさ、ボーカルの艶やかさが伝わるサウンドだ。若干乾いた印象もあるが、塞ぎ込まれたような窮屈さや過度な濃密さと表現されるものはなく、いい意味でハイレゾを意識したチューニングとなっている。
曲をSWEETEST BITE、Eutopiaに変えてみる。低域のレスポンスの良さ沈み込み、窮屈さを感じさせない空間表現に関しては高く評価したい。この曲自体かなり低域が効く物になるが、低音がしっかり効きながらも解像感を持ちつつボーカルなどには被らない。この解像感とレスポンスの良さは、低域用ドライバーに強力なマグネットを採用した点が生きていると感じられる部分だ。
ここで曲をETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~に変えてみる。冒頭の静けさの中のボーカル表現も悪くない。後半のドラムスとベースが入ってくる低域は、11mmダイナミックとこの手のイヤホンでは大口径なものを採用したためか、重厚感のあるものだ。この重厚感は従来機のFreeBuds Pro 2よりもさらに上を行くもので、適度なグルーブ感の演出も可能にしている。
不確定性☆COSMIC MOVEMENTは「デカルチャー!!ミクスチャー!!!!!」収録のランカ・リーがカバーするバージョンにて。配信音源もハイレゾということもあり、この機種の持ち味であるワイドレンジをを存分に活かせる。どうしてもボーカルを魅惑的に聴かせる機種ではないので、このような部分に「物足りなさ」は感じるかもしれないが、これを求めたらキリがないのが現状だ。サウンドステージも比較的広い機種となるので、このような曲でも窮屈さを感じさせずに気持ちよく聴ける。非常に上手なチューニングと評価する。
ここまで聴いてきて、サウンドクオリティはかなり高いことが分かる。所詮はスマホ屋のイヤホンと馬鹿にしていたのは申し訳ない限りだ。さすがに有線のイヤホンには劣るが、LDAC環境であれば有線環境に近いところまで来ている。
世界初の超高音質伝送に対応したFreebuds Pro 3。対応機種との「最強の組み合わせ」を体験するとLDAC接続にはもう戻れない
ファーウェイのFreeBuds Pro 3には隠し機能というわけではないが、特定の組み合わせによる「超高音質モード」が存在する。それがL2HC 3.0を用いた1500kbps(1.5Mbps)でのロスレス伝送だ。日本でハイレゾワイヤレスの基準と言われるLDACが上限990kbps、aptX LossLessが特定条件下で1200kbpsということを踏まえると、この数字は驚異的なものだ。
ファーウェイはこれを「真のロスレス」としており、CD音源のビットレートである1411kbpsを無圧縮で伝送できるとしている。このコーデックは上限値が1920kbpsまでの音声を伝送できるとしており、ワイヤレス環境でのさらなる高音質化が期待できそうだ。
特定の端末と接続すると「ff」の表記と「LOSSLESS」の文字が現れ、L2HC 3.0にて接続される
この高音質伝送はFreeBuds Pro 3に採用された「Kirin A2チップ」と同社のスマートフォンに採用された「Kirin 9000Sプロセッサ」の組み合わせに依存するもので、現時点で対応するデバイスは極めて少ない。今回筆者はたまたま対応機種となる「Mate 60 Pro」を持ち合わせ、合法的に利用できる場面だったのでこちらでのレビューも残しておく。なお、この機能は日本で販売されている製品でも利用できる。
さて、この構成で何曲か聴いてみる。一言で表現するなら「LDACには戻れない」と感じてしまうレベルだった。特に空気感の表現と低域にもう一段厚みが出るような形となり、繊細な表現も見えてくる。ロスレス音源でのストリーミングサービスを利用しているなら、この組み合わせは「最強」と評価すべき仕上がりだ。
加えて、LDACに比べて音切れも少なく人混みの中でも問題なく利用できたこともあり、接続安定性、機能性、高音質の3つを両立させた面で「ワイヤレスでもここまで来たか」と感じさせられた。まさに「新境地」と表現すべきものだ。
Huawei Mate 60 Proと接続しても聴いてみた。ハイレゾ音源を聴くともうLDAC接続には戻れない
強力なノイズキャンセリングが売りのFreeBuds Pro 3。通話性能や操作性も最強クラスに
さて、音質についてはこの辺りにして、ここからはノイズキャンセリングやマイクの品質について書いてみる。今回このイヤホンを利用して、すごいと感じた点はノイズキャンセリングの効き目だ。筆者も多くのイヤホンを利用してきたが、ここまで効きの良い機種はそう多くない。今作もかなり高い次元に持ってきている。
ノイズキャンセリングの感度はかなり強力な部類だ。FreeBuds Pro 3では従来比で50%向上したノイズキャンセリング性能を備える。従来モデルが3つのマイクを使って最大-47dbの騒音をカットすることができたことから、今回もかなり強力な仕上がりだ。モードは「くつろぎ」「標準」「ウルトラ」の3つとなり、これらをインテリジェントに切り替えることも可能だ。
進化したノイズキャンセリング性能はすごいもので、電車の走行ノイズから街の喧騒。はたまた工事現場の脇というかなりの騒音下でも音楽を再生していればほとんどわからないものであった。ウルトラの設定であればBOSEのQuietComfort Ultra EarBudsまではいかないものの、AirPods Proを凌駕するレベルだ。
通話時は3つのマイクに加えて、骨伝導センサーとAIアルゴリズムも用いて高音質な通話を可能にしている。こちらもVPU(Voice Pickup Unite)の配置を最適化し、従来の2.5倍音声を収音できるようになったとしている。風切り音の抑制も進化し、風速9m/sの環境下であれば問題なく抑制できるという。
通話品質についても良好で、実際に屋外でも通話先にしっかり音声を届けることができていた。この辺りはスマホメーカーらしいノウハウが多く詰め込まれている。
音以外の部分もしっかり評価したい。この機種の特徴としてはIP54相当の防水対応にマルチポイント接続がある。マルチポイント接続は2つの端末との同時接続が可能なものだ。例えば、プライベートと仕事用で携帯電話を分けて2台利用している場合、前者から音楽を再生し、後者の着信待ち受けを常時を行うことが可能だ。高音質再生を売りにする機種でマルチポイント接続できるものはかなり少ないため、そのような意味でも貴重な存在となる。
FreeBuds Pro 3では接続した両方の機種で対応していればLDACコーデックが利用できる。ファーウェイの端末間であれば、よりシームレスな接続が可能だ。スーパーデバイスからワンタップで接続したい端末に切り替えて利用できる。ちなみにイヤホンのOSはHarmony OS 4.0となっていた。
バッテリー性能はANCオフで連続約6.5時間、充電ケースと組み合わせで最長31時間。ANCをオンで連続約4.5時間、充電ケースと組み合わせで最長22時間バッテリーが持続するものとなる。多機能ゆえに少々電池元が悪い点が惜しいところだ。
フィット感についてはよく見るあの形状だ。やはりこの形状は人間工学的にもよくできているのか上位に入る装着感だ。イヤーピースもSSサイズが追加されている
今作では操作部に「くぼみ」が設けられ、より操作しやすくなっている。
高音質、高性能ノイズキャンセリングを備えながらも2万円台は破格
今回のHuawei FreeBuds Pro 3だが、構成は前作と大きく変わらないことから「単なるマイナーチェンジ」に加え、デビアレのチューニングではなくなったことはマイナス要素と考えていたところ、いい意味でこれは裏切られた。
地道なハードウェア強化、コーデックの強化といった「進化」を感じる要素は多く、特にL2HC 3.0の環境で聴いたときは「ワイヤレスイヤホンの新境地」とも言える高いレベルを見せつけられた。
音響のパーソナルイコライジング、平面ドライバー搭載ハイブリッド構成、LDAC対応で卓越した音質、強力なノイズキャンセリング、高品質なマイク性能。これだけの機能を備えながら、実売2万7000円と前作据え置きは破格だ。
完全ワイヤレスイヤホンの場合、通常のイヤホンに比べて出荷数が多い分パーツコストを圧縮できる。それ以上に、処理アルゴリズムやハードウェアを自社開発していることも、この価格に抑えた理由だと改めて感じる。研究開発に惜しみなくコストを投入し、グローバル展開できる販路とブランド力を持ったファーウェイだからこそできるものだ。
事実、米国の制裁でスマートフォンの展開は難しくなったものの、ウェアラブル端末やワイヤレスイヤホンについては好調であり、日本でも比較的売れ筋となっている。
スマホ屋のファーウェイが本気で作ってきた完全ワイヤレスイヤホンのニューモデル。サウンドクオリティや機能性などのトータルでの完成度はかなり高く、単品として評価してもなかなか素晴らしいものであった。興味がある方はぜひ検討してみてはいかがだろうか。