「スマホ選びに迷ったら、とりあえずiPhoneを買え」
スマートフォンを選ぶにあたって、なにか迷いがあった際に周りに相談すると一度は耳にする言葉だ。
そもそもかつては「迷ったらiPhone」なんて言葉どころか、iPhoneは「取扱説明書もない上級者向け」と言われたものだった。
そんなiPhoneがこの位置に来れた理由を考えてみよう
iPhoneは失敗する。そのように言われた黎明期
かつてのiPhoneを振り返ると、今のような評価を得ることは難しいものだった。iPhone 3GからiPhone 4までは「ソフトバンクで売ってる未知の電話機」と言ったところだった。
初期は「防水もない」「ブラインド入力ができない」「画面が指紋でべたべたになる」「性能が低い」と言ったところが消費者からはやり玉にあがった。
iPhone 3Gは日本では2008年7月11日に販売された
実は前評判はあまり良くなく「失敗する」という意見も少なくなった。特にコンテンツ不足は指摘され、当時主流の携帯向けコンテンツが利用できない点は惜しいと評価せざるを得なかった。
加えて最初に取り扱ったソフトバンクは、当時エリア拡充に喘いでおり、山間部では圏外になることも少なくなかった。回線品質は悪いとも言われていた。
当時主流のiモードやezWeb向けの機能やサービスが利用できないiPhoneには「厳しい」と評価したメディアも少なくなかった
ただ、iPhoneの与えた衝撃はすごいもので、各社がタッチパネル式のスマートフォンを開発する契機にもなった。4G通信の普及とモバイルプロセッサの性能向上も後押しした要素となった。
iPhoneを確固たる評価に押し上げたもの。それはフリーズ等しないで「普通に使えること」だった
iPhoneが「理想のスマートフォン」として言われるようになった理由。それは、ギーク向けでもなく普通に使えることだったものだ。
iPhoneが搭載するiOSの強みとして、厳しいメモリ管理とアプリ最適化によるソフトウェアの安定度の高さがある。これは当時としてはかなり優秀なものだった。
加えてAppleの審査もいい方向に転んでくれた。ストアが乱立したり、完成度が極度に低いアプリやセキリュティ的に問題のあるアプリが少なかったことも、スマートフォンを使う上での安心感を押し上げた。
厳しいメモリ最適化とアプリの最適化によって、iPhoneはフリーズと言ったことがAndroidスマートフォンよりも少なかったのだ。
競合となるAndroidスマートフォンにはiPhoneよりも高性能なものもあったが、それ以上に動作が不安定なものが多かった。
日本向けにはiPhoneとの差別化のために様々な機能を詰め込んだ結果、フリーズ(動作が固まる)や発熱による強制終了は日常茶飯事とも言える結果にとなった。
メーカーの便利機能アプリも制作ノウハウがなく、使いにくいもの、挙動がおかしいもの、操作方法が統一されないものといった点から不満を買った。
また、スマートフォンは従来の携帯電話よりも、パソコンや PDA に近い考え方で利用しなければならないといった点もあった。この事実に、なかなかユーザーの意識が追いつくことはなかった。
日本向け機能を詰め込んだ「ガラスマ」初期の端末である東芝IS04は不具合の連発で利用者から不満の声が続出した
特に2010〜2012年のAndroidスマートフォンは多くの機種でソフトウェア周りが洗練されておらず、発熱や動作不良、不具合に苦しんだ機種も少なくなかった。特にノウハウの蓄積がないままスマートフォン時代の競走に加わった日本メーカーはかなり苦しめられた印象だ。
この頃の機種は総じてバッテリー持ちが悪く、モバイルバッテリーを複数持ち合わせて使用するユーザーの姿も見られた。端末の冷却機構も貧弱な上で発熱も多く、熱暴走となった機種も少なくなかった。
日本向けローカライズを図ったソニーのXperia acro。
高性能なカメラを搭載して人気機種となったが、動作メモリやストレージの少なさに喘いだ。ベース機種がAndroid 4.0アップデートされたことに対して、当機種には行われなかったことが不満を買った。
iPhoneを超える4コアプロセッサを積みながら防水防塵、指紋センサーをいち早く備えた富士通 ARROWS X F-10D(au向けはISW13F)
高性能な裏には過度な発熱によるバッテリー持ちの悪さ、フリーズの多さ、強制再起動の多さでユーザーの不満を買った。
憧れとなったiPhone。auとドコモの取り扱いでユーザーが加速度的に増加
「iPhoneがうらやましい」
10年ほど前にiPhoneを使っていた際に、友人から言われた一言だ。これは魅力的なアプリの存在などではない。「フリーズも熱暴走もしない携帯電話」として魅力的だと言われたのだ。
もちろん、Androidスマートフォンでは防水対応、FeliCa対応、SDカードが利用可能という大きな武器があった。
モバイルSuicaを用いて携帯電話だけで簡単に交通機関が利用できる、SDカードで手軽に容量を増やせる以上に「普通に電話機として利用できるiPhone」はその利便を欠いてもなお魅力的だったのだ。
「それならばiPhoneに乗り換えればいい」
簡単に言うが、当時はそれが難しいものであった。MNPで乗り換えられるといっても、当時は「2年縛り」があり、好きなタイミングで乗り換えることは今以上に難しいものであったのだ。
解約金を支払えばのりかえは可能ではあったが、1万円以上と高額なこともあって控えていた方も少なくない。
極めつけは端末のSIMロックの存在だ。中古でiPhoneを買ってきてもSIMロックがかかっているので、当該キャリア以外では利用できないという形となっていた。
そのため、iPhoneを「使いたくても使えない」という方がそこそこの数いたことも事実だった。
当時のiPhoneにはSIMロックがかかっており、解除はできなかった
その一方で iPhoneは目玉商品となり、不具合連発のAndroid端末に比べるとかなり魅力的な商品となった。
ソフトバンク以外のキャリアも大きく注目し、2011年にauが、2013年にはドコモが取り扱うようになり、大手3キャリアの足並みが揃った。これによって多くのユーザーは、機種変更で iPhone を手に入れることができるようになった。
ドコモの取り扱いから数年後には日本で売れる携帯電話の内、メーカー別シェアではAppleがトップを取るようになった。
iPhone 6世代が販売された当時は、防水やおサイフケータイといったものは何も備えていなかった。それでも「まともに利用できるスマートフォン」としての イメージがついたiPhone は売れ続けた。
2016年発売のiPhone 7ではイヤホンジャックがなくなったものの、防水とおサイフケータイに対応した。加えて、 Apple Payによる電子ウォレット管理は乗り換え手続きがかなりスムーズであり、従来のモバイルSuica にはもう戻れないようなものとなった。
防水とおサイフケータイに対応したiPhone は、日本のユーザーの心をがっちりつかんだスマートフォンと言ってもいい存在となったのだ。
iPhone 7はローカライズによって日本でも大きな話題になった。
完成度が高められたAndroidスマートフォン。それでもハズレの存在からユーザーは振り向いてくれなかった
さて、iPhone ばかりフォーカス当てたが、Android スマートフォンもそれに合わせて進化を続けてきた。
2013年頃には性能的にもかなり安定したものが現れ、ハイエンド端末であればiPhone に引けを取らないものも多く出てきた。
その一方で時折現れるハズレや発熱の問題といったところでは、苦しいものとなった。iPhone のように何も考えずに買ってもハズレが少ないものに対し、Android スマートフォンはメーカーやその世代によっていわゆるハズレと呼ばれるものが少なからず存在していた。
2015年発売のXperia Z4
この世代は世界的に見てもプロセッサーが不作と言われた年で、ハイエンド機は多くの機種で発熱などに悩まされた。
加えて、このハズレはアップデート期間の長さも含まれていた。例えば2015年発売の iPhone 6s は2021年のiOS15までのアップデートが行われた。
その一方で、同じ時期に発売されたXperia Z5では2017年のAndroid 7.0までとなっている。
これはまだいい方で、富士通の ARROWS NX F-04GはAndroid 6.0、ソフトバンク向けのAQUOSに至っては一度もOSアップデートされなかったものもあった。
そのため、同じ世代の機種でも、メーカーや機種によってはOS のサポート期間に大きなばらつきがあったのも事実だ。
Xperia Z1のように海外版にはAndroid 5.0のアップデートが行なわれたものの、国内版にはアップデートされなかったことへの不満が募り署名活動まで起こった例がある。
このような不信感はAndroid 端末に対して、いいイメージを抱かなくなる原因となった。メーカーによってアップデートの温度差が大きく、同じメーカーの機種でも販売されるキャリアによってはまともにアップデートされない場合もあった。
そして、これを消費者が予期することはかなり難しい。ある意味運みたいな状態になり、長期間使っていく上ではかなりの不安要素となった。
初期のフリーズ頻発のひどい状況に比べればかなりまともになった。本当の意味でこの悪いイメージを払拭できるような機種が出てきたのは4〜5年前の話となる。
そのような中でも、Android端末を選びたいといったニーズはあった。例えば、大画面の端末や防水防塵、おサイフケータイと言った日本向けのローカライズ機能を求める場合だ。これらを求めるとiPhoneは選択肢から外れてしまっていた。
それも2014年の iPhone 6にて大画面化し、2016年の iPhone 7でおサイフケータイと防水に対応した以上、Android端末が持っていたアドバンテージはほぼ消失したと言ってもいい。
動作は安定していて、アップデートは長期に渡って行われる。加えて防水やFeliCaにも対応して機能面での不足は一切なくなり、どこのキャリアでも購入できる。
「スマートフォン選びで迷った時はとりあえずiPhoneを買っておけば大丈夫。」
この文言が当てはまる環境がiPhone 7の登場によってここに全て揃ったのだ。
ハズレのないiPhone。「迷ったらとりあえずこれにしておけ」の代名詞に
「スマホ選びに迷ったら iPhone を買っとけば大丈夫。」この文言が生まれた背景には、黎明期のAndroid端末に対する不信感、実際に使うに当たって苦労したという体験が強く反映されている。
それに対して、フリーズ等なく至極真っ当に動作するiPhoneへのある種の憧れもあったように感じる。
「Android端末にはろくなものがない。」これが時代を追って伝搬され、3キャリアでの iPhone の取り扱いや、防水やおサイフケータイの対応を契機に多くのユーザーが iPhone を手にするようになった。
キャリアもストレージの少ない廉価モデルを0円で販売したりと、iPhoneを比較的入手しやすい環境を作ったことも大きかったと言える。
数が売れれば市場にも変化が現れる。例えばiPhone に対応したアクセサリーはものすごい数が出ている。ケースやフィルムに至っては、家電量販店のみならず100円ショップやスーパーなどでも購入ができてしまう。
このようなアクセサリーの豊富さや、廉価に買える手軽さもiPhoneを選ぶ理由の1つになってきているのだ。
iPhoneのケースは手軽に購入できる
気が付いたら衝撃的だったiPhone7の発売から、7年が経とうとしている。
今では、iPhoneは防水とおサイフケータイが使えて、長期なアップデートも当たり前のように行われる。アクセサリーも豊富で選びやすい。もはや、そういうスマートフォンの認識となっているのだ。
とりあえず人に勧めてもいいスマートフォンとして、iPhoneはある意味7年間も君臨していると言える状態なのだ。
これからスマートフォンを購入を検討する方に向けて、「Android スマホでなければダメ」と言い切れる要素はかなり少ない。強いて言えば、イヤホンジャックとSD カードから利用できるくらいだろう。
これらの要素にこだわりがなければ、iPhone でほぼ全てカバーできると言っていい。だからこそ「迷ったらiPhone」という結論に至ってしまうのだ。
そして筆者もまた、スマートフォン選びに迷ってる方に「とりあえず iPhoneを検討してみてはどうだろうか。」と言ってしまうのだ。